第7話 さよなら異世界
それからしばらくして、戦いは終結した。
わたしは放心して、魔王城の瓦礫に座ってた。
あのあと、大量の転生者をどうするかってことで、もめてたみたいだけど、以外に早く解決策が見つかったようだ。
転生者のなかには、どういうわけか、何人も魔術師がいたんだ。推しキャラがどうしても外せないひとたちだったみたいだ。リオラと同じチート魔術師がそれだけいれば、異界魔術は使い放題だ。それに、リオラが作ったように転生魔方陣だってあらたに開発できたんだ。こんどはちゃんと、もとのからだをイメージすれば、もとのままに戻れるんだそうだ。魔石は魔女王からいっぱい奪い取ってた。
結局、みんなもとの世界に帰すことになったらしい。
エリクシールが、この世界のバランスを壊してしまう禁呪だということをいっしょうけんめい説明してた。残りたくて反対するひとは大勢いたんだけど、なにしろ、魔術師はみんなエリクシール推しになってたようで、なんか、かしずいてて・・・。反対派を押し切って、強行してた。
さっきまで、平原にはたくさんの転生魔術の光や音が、出たり消えたりしてた。逃げるひとも大勢いたけど、リオラたちは逃がさなかったみたい。
ああ、怪獣だった最後のひとが転生されてる。
わたしももうすぐ転生しなきゃ。
わたしだけ例外ってわけにはいかんよね。そりゃそうよね。
残りたいひともいっぱいいたんだしね。
ランスエリスはずっと、わたしのそばに座ってた。
なにか話すわけじゃなかった。
見下ろすと、さっきまでの爆風や石つぶてにさらされて、傷だらけの彼の横顔が、悲しそうに見えた。乾燥して砂ほこりを浴びた彼の髪が、ゆるやかに風にたゆとうていた。
彼は私の素のすがたを見ても、変わるようすはなかったけど。それ以上でもなかったよね。まあ、そうよね。ずっと一緒にいてくれたけど、どうかなるとか思ってたわけじゃないしね。
王さまにでも頼んだら、もういちど転生させてくれるかも?
そうできるかも。
でも、もとの世界には父や母がいるし。
ランスエリスたちと別れたくないけど、別れるしかないのかな。
リオラがわたしを呼んでいた。
ああ、順番がきたんだわ。
平原に、ひときわ大きな魔方陣が光ってた。最後に転生するのはわたしだ。リオラは残るんだろう、きっと。
「タエどの・・・」
ランスエリスが声をかけてくれた。
「もしもあなたが、ここに戻ってきたいのであれば、わたしたちは・・・」
ああすてき。揺れるわ。
「でもわたしは、いちどは転生してこないとならない。このからだのままってわけにはいかないわ」
光る魔方陣に歩いて行った。
エリクシールが拝むように、わたしに向かって手を合わせていた。
「ありがとう。あなたがいなければ、人間のはなんども滅んでいたでしょう。あなたへのご恩は生涯忘れません」
あまりにも美しい、水晶のような涙がほほを落ちていた。
「抜剣んん!」
ランスエリスの声に従って、騎士団の剣が天を差した。
「捧剣ん!」
剣が鮮やかに回され、わたしのほうへ捧げるように掲げられ、騎士団は膝まづく。
まるで王族の結婚式みたいだ。
ああ、どうしよう。
まだ決心がつかない。
帰ってからちょっと、時間をもらったらどうだろう。
家に手紙をおいてこようかな。
光が強くなってきた。
転生するまえに決めないと。
お母さん、だいじょうぶだよ。
幸せに暮らすよ。
彼と。
でももう転生。
あれ、転生。
あれ転生しない。
「おかしいな、あれ? どうした〰〰?」リオラが魔方陣を見てた。
ぐるぐるまわりを見回りはじめた。
「あれ?」
「ど、どうしたのよ?」
「なんかさあ、ゆがみが出てるんだよね」
「ゆがみ?」
「ああ、ちょっと気にはなってたんだよね〰〰」
エリクシールがやってきた。深刻な顔をしてた。
「まさか、そういうことですか?」
「そうなんだよ〰〰」
そういうことって、どういうことなのよ〰〰!
「この世界にゆがみが出てる〰〰。なんども大量に転生なんかやったせいだ〰〰」
えええ! どういうこと! どういうことよ!
「わ、わたし、どうなんの?」
このからだのまま、転生できないの〰〰!
「いや、世界のゆがみではないようです! なにかが、干渉しています!」
エリクシールが魔方陣に手をかざしている。
そのときだった。
いきなり空中に光の渦が出てきた。見たことあるヤツだった。
「こ、これは!」
そこに現れたのは大司教ゾウラハウスだった。
「おお、おまえたち! ここにおったか!」
「ゾウラハウス! きさま、なぜここに! 脱獄したか!」騎士団が剣の鍔を鳴らした。
「い、いやまて、そうではない! そうではないのじゃ! 王命で獄から出たのじゃ!」
「王命?」
「転移魔術はわししか使えぬでな。王もやむなく、わしに命じたのじゃ。この国の魔術は干渉を受けておる。もうすぐ魔術が使えなくなりそうじゃ!」
「なにを、おまえが、なにかたくらんだのではないのか?」ランスエリスが詰め寄った。
「わしらが争っているときではない! あらたな敵じゃ!」
「あらたな敵?」
「悪魔国が攻め寄せてきたのじゃ! 悪魔王デーモンキングじゃ!」
おお、とどよめいた。
「まさか、悪魔国とはほんとうにあったのですか」エリクシールたちが驚いた声を出した。
あれ?
このくだり、まえにも聞いたぞ。
「悪魔王の魔術式干渉じゃ! このままでは、あと二十四時間でこの国の魔術がいっさい使えなくなるであろう! それまでになんとかせねば!」
あと二十四時間で?
デーモンキングをやっつけろ?
またかよ。
ウソだと言ってよ。
よせよ。
「いいかげんにしろ〰〰〰〰〰〰〰〰!」
わたしの咆哮が、ラガストーン山脈にこだましてた。
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