第4話 骸骨の目

暗闇の中、宙にふらふらしている骸骨を警戒して数分、瀕死だった大野もピンピンしている。

「なんなんだろう。いきなり攻撃してくるし、意味不明だよね。」

「帰ろうとしたら攻撃してくるってことかぁ?」

挙動が明らかに変だ。

これがゲームなのかと思ったが、看板先輩も驚いているしどうしたらいいんだ。

「うーん…GIでこんなボスと出会ったことないし…他でも見たことないですし…」

「退屈な敵だよなぁ…」

俺たちは宙に漂う骸骨を眺めている。

あっちはこっちのことなんて知らないみたいに目も合わない。

骸骨だから目はないけども。

「一回全滅して町に戻るしかないですかね…」

「それって死ぬってこと? 怖い!嫌だ!」

別にそれでもいいが、なんかバグってこういうものなのか。

看板先輩が大野を説得している。

ここまでくると大野も看板先輩の目を見てはっきりと断るんだな。

「お前もそう思うよな?」

「!?」

看板先輩がびっくりした顔している。

そしてその目の前に剣を振りかぶる骸骨がいるぞ。

「大野!じっとしてろ!」

俺はすぐに弓を構えて矢を放った。

「え?おい!」

困惑しながらも大野は自分の前を通っていく矢を目で追った。

そして骸骨はまた宙に飛んですらりとかわした。

「ま、まただよ…なんなの?え?」

「攻撃されるとこだったんすよ、看板先輩が。」

「なんで…?」

この感じはやっぱり機械的すぎる。

そう思うのはさっき攻撃された状況と今のが似すぎていたからだ。

何か条件があるはず、いったいなんだろうか。

「あの骸骨は俺には攻撃してこないよなぁ、俺って運がいいのでは?」

「黙っててくれ。」

「え?」

骸骨はここまで三回攻撃してきた。

攻撃に条件があるのなら、その三回には共通的な何かがあるはず。

「あれ?伊野君やる気になった?」

「さぁ?よくわからねぇ」

共通点…。

「!?」

「伊野君!」

また視界が。

なんで来たんだ。

「伊野!」

体に風が当たる。

痛みはないけど、体が動きにくい。

床に転がっている感覚がある。

「くそ!一体何なんだ!わけがわからないぞ!」

「えーと治癒…あと二回しかないか…困りますね…」

視界が戻った。

看板先輩が治癒をしてくれている。

大野はイライラして大剣を振り回しながら叫んでるな。

「大丈夫?」

今のもいきなりだった。

俺は考え込んでいただけ、それだったら攻撃されていないときにもしているし。

下を向いたからか、いや看板先輩が攻撃されたときに下は向いていなかった。

「あの態度むかつくな!上から見下ろしやがって!」

ああやって上にいる限りは戦況は動かない。

そういうわけじゃない。

だが、骸骨自身は攻撃を受けることはないわけだ。

「さっきからうるさいな!静かにしてくれない?」

「あー!そんなこと言われてもさー!偉そうなんだよな!」

相変わらず大野はこういうとき感情的だな。

「騒いでも仕方ないでしょ!」

大野は怒ると適当なこと言うからな、相手が思っていないようなことを思い込みで言ってくる。

たまにあいつの思い込みがあたっていることもあるけど。

そういうときはエスパーみたいに心読んできて、こっちが次言うことまで当ててくるなんてこともあったな。

「そうだけどさぁ…むかつくだろ…ああやって見下されるとむかつくだろ!」

「見下すって、こっち向いてないでしょ!」

そういえば…こっちを向いていないのになんで俺たちの位置がわかるんだろう。

相手がゲームの敵とはいえ、なにかで俺たちを探知しているはずだけど、音ならずっと話しているし、匂いだって…。

「安全圏にずっといやがって!卑怯だぞ!降りてこいや!」

あの骸骨が宙に漂っている理由は、仮に攻撃があの距離に届いたとしても当たりにくくするためだろうか。

あそこは安全圏だけど骸骨も近接しか攻撃方法ないようだし、あっちも攻撃できない。

あっちから仕掛けてくることはなかなかないし、それじゃあまるで…。

「ビビってんのか!こいよ!この野郎!」

ビビっているみたいだ。

ビビっているからこっちを向かないのか。

…よくわからない。

「っち、やっぱりあいつ普通じゃねえよな。やめだやめだ!」

普通じゃない。

あきらめてこっちに歩いてくる大野。

「おい!伊野!殴らせろ!」

不機嫌なのはわかるけど、俺を睨むな。

性格変わりすぎだろ。

「どうする?回復もあと一回だし、やめる?」

それにしてもこうやって見ると、やっぱり看板先輩のキャラって白人顔だな。

「いや、白すぎだろ!」

って違う、これは。

「来たぞ!」

「うわ!」

今のタイミング、そうだ。

わかったかもしれない。

「こら!降りて来いって!楽しいのかそれ!」

戻った。

今、大野は宙にいる骸骨を見ている。

「ねえ?」

看板先輩は俺を見ている。

やっぱりそうか。

「どうしたの?にやにやして?」

「いや、わかったんだよ。」

「なにが?」

「あいつの攻撃が。」

「?」

看板先輩の傾げた首を元に戻すぞ。

俺は大野に聞こえないように小声で話す。

「あの骸骨は攻撃されたくないからじゃなくて、攻撃できないから宙にいるんだ。」

「え?攻撃できない?」

「そうだ、あいつは俺たちの位置がわからないんだ。」

「でもさっき襲われたとき、完全に私目掛けてきたよ?」

「あそこにいるときは位置がわからないってことだ。逆に言えば、位置が分かった時に襲ってくるということ。」

そうだ、あいつは俺たちの位置がわからない。

だからこっちの位置がわかるまで攻撃されないように宙にいる。

「だったらどうやって、こっちの位置がわかるの?」

「骸骨に攻撃されたときのことを思い出してみろ、何してた?」

「何って、何もしてなかったよね。」

「じゃあ、何されてた?」

「何されてたって…何も…というか話してただけじゃない?」

「話すときってどうする?」

「え?その人のほう見て声出すとか…もういいから何が言いたいの?」

俺は満を持した。

そう探偵気分だった。

「看板先輩は俺と大野に見られたから襲われたんだ。」

「…え?」

「つまり骸骨の目は俺たちの目だったということ、自分以外の仲間に見られるというのが骸骨の攻撃できる条件だ。」

俺は胸を張って看板先輩に言った。

でも看板先輩は首を傾げたままだった。

「さっきからなに話してんだ?」

おい、視界が。

俺は吹き飛ばされた。


ゲームの中でもたんこぶはできるのか。

「とりあえず、そっぽ向いてればいいってこと?」

「そう、こっち見ないでね!」

皮肉にも看板先輩は俺がさっき攻撃されたところで俺の主張を信じてくれた。

というかそのまま証明になってしまった。

「回復は使い切っちゃったね、でもこれで戦えるね。」

「策があるってことですか?」

「まぁね、これでも部長ですから。」

信頼できない。


変わりなく宙でふらふらしている骸骨。

こっちはお前を倒すのに頭を使ってたのに、ずいぶん楽そうだな。

「おい、準備できたぞ。」

「おっけー!こっちも目を閉じたよ!」

大野が大剣を盾にし、看板先輩が大野のほうを向いておいて目をつぶっている。

配置は上から見て三人が三角形の頂点のようになっていて、俺と看板先輩が大野のほうを、大野は俺と看板先輩の両方が見えるように向いている。

そして俺は弓に矢をつがえて、大野のほうを狙う。

「伊野君、弓の準備できた?」

「できましたよ。」

看板先輩の作戦は秀逸だった。

これなら骸骨を倒せるかもしれない。

「チャンスは一瞬だからね!いい?」

「大丈夫です。」

「じゃあ行くよ!」

看板先輩は目を開ける。

俺と看板先輩が大野を見た。

それと同時に俺は矢を放つ。

大野は戸惑いながらも大剣を盾にし続ける。

矢はある位置に向かっていく。

「すべては決まっていたんだ。」

あの骸骨の特性は俺たちを目にして攻撃するということだった。

でもそれがわかったところで骸骨は倒せない。

なぜなら骸骨は攻撃しても避けてしまうからだ。

特性は一つだけではなかった、攻撃の特性のほかに回避の特性があったんだ。

だから骸骨を攻撃することはできない。

しかし看板先輩はその上で作戦を話していた、それは回避の特性を解決したからだ。

「きて!てかこい!骸骨!」

もう一つの仮説、それは出現位置について。

骸骨の現れる場所は決まっていて、それを求める方法は攻撃の特性にある。

骸骨は俺たちを目にすることで周りを見ている、そして攻撃してくる。

ならば避ける時も俺たちを目にしているはずだ。

それはつまり俺たちの攻撃を見ないと避けられないということ、俺たちが見える位置に自分がいないと攻撃がわからないということだ。

骸骨は攻撃の対象の視覚をしばらく奪うからその対象から攻撃されることはないが、目にした対象からは攻撃されるかもしれない。

だから骸骨は攻撃されてもわかるように俺たちの視野のどこかに現れる。

そしてそれは絞ることができる。

なぜなら骸骨の攻撃は近接しかないからだ。

「そして絞られたのは、俺の正面てことだろ!」

骸骨は現れ、大野を攻撃するが大剣によってそれは弾かれる。

矢はその瞬間を待っていた。

「よし!」

骸骨の頭を矢が貫く。

骸骨はやはりその位置に現れた。

「やった!当たった!勝った!」

「うおおおお!見えねええええ!やったのか?」

やっぱり骸骨の体力はほとんどなかったみたいだ。

矢が一撃当たっただけでバラバラになって動かなくなった。

「いやぁ…完璧な作戦だったねぇ~。」

「お!見える!お!死んでる!やったぞ!」

「お前大剣構えてただけだろ?」

「いや結構怖かったんだぞ!」

なんとか倒せた。

ボスというのはこんなに厄介なのか。

でもそのぶん、達成感があるな。

「あれ?満足げだね~伊野君~?」

「うるさい。」

「え~?」

看板先輩が調子乗りまくってる。

作戦考えたのは先輩だから許しておこう、ちょっとむかつくけど。

「どうどう? 今回は変な感じになっちゃったけど、VRゲームって楽しいでしょ?」

「ま、まぁ…」

「ん?あれ…っておい!やばいぞ!」

「じゃあ決まりだよね!ね?ね?」

「それよりもボス倒したら宝あるんじゃ?」

「おい!やばいって!」

「宝?話逸らさないでよ!」

「やばいぞ!おい!」

「ってさっきからうるさいな~いったい何?」

「だからやばいんだって!あれ見ろって!」

骸骨の頭が赤く点滅している。

「え?嘘?」

「嘘じゃないぞ!」

「まじか。」

真っ暗な空間が真っ白に。

その次見えたのは宿屋の天井だった。

最後の最後に爆発かよ。

やっぱりゲームってクソだな。



――――後書き――――

VRMMOって何ぞやと。MMO?

なんかまた若いのが難しい英語を使っとるな~。


まぁオンラインゲーム的なやつだと捉えてます。

FF14とか出てきたし。SAOでもよく言っていた気がする。あれは違うか。

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