第3話 古城は初見殺し

10歩先が見えないほど暗い。

見えるのは床の煉瓦と壁の煉瓦、そして天井の煉瓦だけだ。

不思議なのは明かりが無くても周りがある程度明るくなるという現象だ。

「暗い、怖い、帰りたい!帰らない?」

「大丈夫だって、私がいるんですから!」

「だからなんだよ!帰りたい!」

ここはグランドイリュジオンというゲームの中。

このゲームは中世に魔法とかいろいろある世界感みたいだ。

今いるのはその中の確か古城って看板先輩が言っていた。

その狭い道を一列で歩いている。

「そもそも大剣なんて扱えないんだよ!」

「選んだのお前だろ!」

「だってかっこよかったからさぁ!」

俺は止めたんだ。

片手剣と弓矢と大剣から一つ選ぶなら絶対に弓矢のほうがいいって言ったのに。

現に弓矢を選んだ俺は一番後ろで楽だし。

「まぁ死ぬことはないんだし、そんなに怖がらなくても。」

「怖いもんは怖いんだよ!」

大野の叫びがよく響く。

古城に入ってから数分、ずっとこんな感じだ。

ホラーが苦手な人はVR部は向いていないということだろうか。

「怖い怖い怖い怖い…」

ガタガタ震えながら俺の前を歩く大野、こっちは笑いをこらえるのに必死だぜ。

「そんなに怖い?」

先頭の看板先輩が止まって後ろを向いたみたいだ。

「な、なんで笑ってるんすか?」

「えー?それは今からわかるよー?」

あー看板先輩がよく見える。

剣をしまっているから敵を片付けたところなのかな。

あー俺もちょっと怖くなってきた。

「あ、気にしなくて大丈夫!この世界石の欠片を使えば…」

看板先輩はその世界石のなんとかを上に掲げる。

するとそのなんとかの石のなんだがか光を発して消えた。

「え?え?え?」

突如現れたのは困惑している大野。

「ほら死んでも蘇るし、全滅しても宿屋からだから大丈夫!」

「え?え?え?」

やっぱり大野、楽しんでるなぁ。

こいつ置いて逃げても良さそうだな。

「ほら、行くよ!時間あんまりないんだし!」

「そうだな。」

看板先輩の足音がよく聞こえる。

結構早歩きするんだよな。暗い場所なのに。

ここは一本道だから行き止まりがあれば、頭ぶつけそうだな。

「…」

目の前に壁がある。

でもおかしいな、壁の向こうから看板先輩の足音がするんだが。

「…」

そういえば隠し扉があるかもしれないって言ってたな。

俺は弓を取り出した。

たしか隠し扉は攻撃すれば消えて、その先に進めるって話だったっけ。

矢をつがえる。

「…え?」

よし。

矢を放つ、命中。

「え?なに?え?」

弓矢では息の根は止められないか。

でもこれで先に進める。

俺は瀕死になって片膝ついている大野という名の隠し扉を跨いで先に進んだ。


細い道の先にあったのは正面にはっきりとある二つの分かれ道だ。

ここまで分かれ道なんてなかったから新鮮に思える。

「この感じ、戻れないタイプかもしれないね。」

「戻れないタイプ?」

「GIのダンジョンって罠が多いんだよ。」

GIとはこのゲームの名前、グランドイリュジオンの略称。

ダンジョンとは宝と敵とボスがある迷路みたいな感じのやつ。

俺はゲームしないから言葉を覚えるので大変だ。

「どっち行く?」

「どっちって、罠のないほうしかないだろ。」

「だからどっち?」

「だから罠のないほう。」

「それはどっち?」

「…わからない。」

ゲームって性格悪くないか。

どっちの道が正解だなんてわかるわけないだろ。

これだからゲームは。

「…じゃあ多数決にする?」

「…どっちでもいい。」

右と左の道を三人で選ぶ。

俺は右、看板先輩も右、大野は左。

「じゃあ右でいいね。それとも…二手に分かれる?」

「悪かったからああああああ!」

半分泣きながら黙り込んでいた大野をさらにいじる看板先輩。

このゲームをよくやると言ってたからか、性格も歪んでいるな。

「じゃあ行こうか。」

俺は少し重い背中に違和感を感じずに右の道へ進む。


戦闘中じゃなければゲームの中じゃ走っても疲れないみたいだ。

それはもちろん歩いていても同じなわけだが、疲れてきた。

今歩いている右の道はさっきと同じような細い一本道のようだ。

ならばさっきと同じように疲れることはないはずなのに。

「結局罠はないのかぁ?」

「そうですね。矢が飛んできたり、毒ガスが出てきたりしてないですから。」

「…帰りてぇ。」

このゲームのジャンルってホラーだっけ。

「ん?なんか音するぞ?」

コトコトという音が響いている。

「敵かもしれないです、武器を構えてください。」

「て、てき?」

「…」

細い道に看板先輩、俺、大野の順番で一列。

敵がいて武器を構える。

看板先輩は片手剣、大野は大剣、俺は…弓矢。

「あれ、弓矢弱くねぇか。」

「大丈夫だ、俺の大剣も天井にぶつかって振れないぞ!」

後方は終わった。

「「はっはっはっは!」」

やっぱりゲームってクソだな。

俺と大野は笑うしかない。

「ちょっと、音聞こえないんだけど!」

「「…はい。」」

ゲームになると怒るタイプの人だった。

それはそうとして音が大きくなっている。

だいぶ近いな。

「ん?どうした?大野?」

大野に肩を叩かれたみたいだ、後ろを振り向く。

「…おーの?」

骨になってる。

てかそれって大野の十八番だろ、なんで俺が。

後ろにいたのは斧を持った骸骨。

「看板先輩!」

「伏せて!」

「え?」

看板先輩の剣が髪をかすめた。

あと少ししゃがむのが遅れていたら俺もあっち側になるところだった。

「ふぅ…スケルトンだったんだね…ってあれ?」

「あ。」

後ろから襲ってきた敵はスケルトンという魔物だったみたいで、剣一振りで倒せるぐらい弱いやつだった。

だったらまたしても瀕死になって、看板先輩に治療されている大野はどれだけ弱いのか。

「仕方ないだろ!武器使えないんだから!」

「まぁ私が治癒できるから、瀕死ならいくらでも。」

「そんなぁ…」

このゲームってゲーム初心者向けじゃ無くねえか。

むしろよりゲーム嫌いになりそうなのだが。


この道はたまにスケルトンが襲ってくるみたいだ。

一本道かと思って前か後か警戒していたら、実は横に隠し扉があってそこからスケルトンが現れたり、行き止まりかと思って後ろに戻ろうとしたらスケルトンが待ち構えてたり、上から降ってくることもあった。

だから警戒しながら道を歩いている。

「ぐはっ!」

「あれ?また瀕死だ。」

「敵!敵!しかも弓矢!」

「まじか。」

「早く早く!」

「なにを?」

「ほら弓矢で撃って!」

「お?」

「…やったぞ!」

「ナイス!」

「あれ?また瀕死だね。」

「早くしてくれぇ~」

またしても瀕死になっている大野。

ことごとく敵は大野に攻撃してくる。

やっぱりこいつを置いていけば楽になるのではないか。

「お、おい、あれ!」

「ん?」

治療されて立った大野が看板先輩の向こう側を指さす。

この道に入って数十分、ずっと暗いし、歩きにくいし、ようやっと楽できるか。

指さした先、この道の先から光が届く。


空気がおいしい…なんてことはなく、だけど外に出た。

ここは城の上のほうで遠くに森や町、城が見える。絶景だ。

「すごいな、観光地みたいだぞ!」

「そうでしょ!そうでしょ!GIの魅力の一つがこの景色なんです!他にも隠し港から見える海とか、処刑場の屋上から見える満月とか…」

またやった。

俺の口数はもともと少ないのかもしれないが、さらに少なくなっているのは看板先輩がゲームのことを早口で迫りながら説明してくるからだ。

「そろそろボスってやつですかね?」

「だからプレイヤーは最果ての地をめざ…え?ええ、そろそろボス戦かもしれないですね。でもボス戦前に絶景をみせてくれるっていうこのゲームの…」

やってしまった。

まぁこの時間は休憩になるか…ならないか、うるさすぎる。

「伊野!外なら武器使えるぞ!」

「俺はさっき使ったぞ。」

「…」

大野は絶景を何とも言えない顔で眺めていた。

そして看板先輩はいまだにしゃべっている。

なんだこれ地獄か、これも古城の罠なのか。


外に出てからは一本道ではなく、いろいろな場所を回った。

塔の中とか中庭とかいろいろ。

敵もなくただ探検しただけ。

宝箱も大したものはなく、ちょっと強い武器とお金と回復アイテムだけだった。

そしてそれっぽい最上階のデカい扉のついた部屋の前にたどり着いた。

「これたぶんボスよ。」

「ボスだぞ。」

「ボスか。」

このゲームは戦闘メインのくせして、この古城はほとんどまともな戦闘がなかった。

それに明らかに初心者向けな感じしないし、一人で来てたら即死だっただろう。

そう思うと、このさきにいるボスもまともじゃない気がする。

「聞きたいことがあるんだが。」

「なんですか?」

「このダンジョンって初心者でもクリアできるようにできているのか?」

「えーっと…それは…その…」

看板先輩はこのゲームを相当やりこんでいるため、初心者の俺たちに合わせて簡単すぎないように新しいデータでやっている。

それなのにこのダンジョンを訪れたことはない。

おかしい。

看板先輩も以前は初心者だったはず、それならばこのダンジョンに挑戦してあの性格ならクリアしているはず。

「もしかしてこのダンジョンって初見じゃ来ないようなところですよね?」

「それは…」

仮想空間に入るときにコントローラーを手首につけたが、それは今もついている。

これをいじることで現実空間に戻れるらしい。

俺はコントローラーを触ろうとする。

「ちょちょ!悪かったから!戻らないで!」

「…どこのボタンだっけなぁ?」

「だって行ったことなかったし、初心者でもクリアできるか確かめたかったんだよぉ~!」

土下座を見たのはこれが初めてだ、本当にすることあるんだ。

「そこまでするなら…」

正直なことを言うと現実に戻る操作がわからない。

あきらめてコントローラーを触るのをやめた。

「おい、どうやって戻るんだ?」

小声で大野が横から話しかけてきたが、無視した。

「じゃあ!行こう!大丈夫だよ、痛くないし!」

看板先輩は意気揚々とデカい扉を開けると、俺と大野の手を掴んで無理やり部屋の中へ入れた。


昔、ここらへんには大きな国があったそうだ。

その国はとても豊かで強かった。

しかし技術力はなかったため、別の国が作り出した兵器によって滅亡してしまった。

この古城はその国を治めていた王の城。

死にきれない国の兵士や民がスケルトンとしてここを徘徊している。

彼らは兵器を恨み、人類の進歩を憎んでいる。

ゆえに現在生きている人間を襲う。

「まさしく序盤のダンジョンっぽいシナリオですね!」

「(どうでもいい…)」

「(怖い、帰りたい…)」

扉の先の部屋に入ってまず見えたのは玉座。

ここは玉座の間のようだ。

でもだれもいない。

「あれ?ボス部屋の匂いがプンプンしたのに違った?」

「ボスがいないダンジョンもあるのではな、ないんでしょうかぁ?」

「そんなの知らないなぁ~」

「「!?」」

バタンという音とともにあたりが真っ暗になった。

扉が閉じたみたいだ。

「この感じ…ボスですよ!」

「別に楽しみにしてない!」

「お、おい…あれ!あれはなんだぁ!」

あれはなんだと恐らく指をさしているのだろうが、本当に真っ暗だから何をさしているのか全く見えない。

「あれってなんだよ…ん?」

「おお!」

冷たい風が吹く。

そして辺りが見えてきた。

「あれだよ!」

王冠被った骸骨が宙に浮いている。

手にはキラキラ光る剣を持っているけど、なんか気持ち悪いな。

「さぁ!気を引き締めて行くよ!」

看板先輩の顔つきが変わり、剣を構えた。

ゲーム上級者の腕前が見れそうだ。

「よ、よし!俺も頑張るぞ!大剣でボコボコにしてやる!」

怖気ていた大野も気合が入ってきている。

大剣を構えて敵から目を離さない。

「…」

二人ともあの骸骨をよく観察している。

看板先輩が警戒するってことは結構強いのかもしれないな。

「…」

骸骨はゆらゆらと宙を動いてこっちを見ている。

あっちもこちらの様子を伺っているみたいだ。

先に仕掛けるのか、看板先輩は。

「…」

なんだ。

二人ともこっちを無言で睨んでくる。

後ろに敵がいるのかと確認したが、いなかったから俺を見てるんだよな。

「…」

骸骨まで俺を見ている。

ボスにも睨まれるなんてなんか俺おかしいのか。

「あの…弓矢でしか攻撃届かないんですけど…」

「…あ、そうだったのか。」

俺がハッとしながら弓を構えようとしたとき骸骨と目が合った。

「!?」

骸骨は光る剣を掲げ、剣を振り下ろした。

「うわ!」

視界が真っ白になった。

凄い違和感だ。

「おい!」

皿が割れたかのような音が鳴った。

またあたりが暗くなってきている。

「!」

大野が目の前で大剣を盾にして骸骨の攻撃を受けて止めている。

「くらええ!」

そこを看板先輩が骸骨に一撃入れようと剣を振る。

しかし骸骨は容易にそれを避けて再び宙で漂う。

「ほら、大剣も役に立っただろ?」

「そうだな。」

何が起こったのか理解できてはいないけど、こっちも負けてはいられない。

大野が調子に乗る前に倒してやる。

「そういうことだったのか。」

俺は弓に矢をつがえて骸骨を狙うが、ゆらゆらと動いているせいで狙いが定まらない。

そもそも距離が遠くて届くかすらわからない。

「撃って!」

「でも当たらないけど」

「撃たなきゃ当たらないよ!」

看板先輩の急かしに負けて俺は矢を放つ。

でもやっぱり矢は届かない。

「…やっぱりダメか~。」

「おい!」

撃てと言っておいてなんだそれは。

「だってボスも攻撃してこないし、なんかバグなのかな?」

「なんだそれ、ここまで頑張ってきたのになぁ。」

看板先輩も大野も萎えている。

確かに宙で漂っているだけで戦う意思を感じられない。

「看板先輩!どうやって現実に戻るんですかぁ?」

「ここをこうして…」

結局こんなオチか。

俺も戻り方教えてもらうか。

「看板先輩?」

「大野!後ろだ!」

遅かった。

「うわ!」

大野は振り向きざまに強烈な骸骨の斬撃を受けた。

俺はとっさに弓を弾いて骸骨に矢を放つが、骸骨はすらりと宙に上がりながら避ける。

「あれ?…って、また瀕死になってる!なにがあったの?」

看板先輩が倒れている大野に困惑しているが、それどころではない。

あの骸骨はまた攻撃してくるかもしれない。

俺は宙に漂いだした骸骨を睨みつける。



――――後書き――――

古城の元ネタはダークソウルというゲームです。興味がある方はやってみてその鬼畜さを確かめてみてはいかがでしょうか?


この回では冒険がテーマだったかもしれない。特にステージ的なもの。まぁこれもここだけしかやらないんだけどね……。


要望があればたまにやるかもしれないです。でも冒険ものなんてやり尽くしてるからね。そこまで特殊にはならないかもしれないね。

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