第2話 肩を掴む人影

俺の名は伊野朔夜、高名高校にこの春入学したばかりの普通の一年生。

勉強が嫌い、運動はできない、得意なことは何もない。

興味のあることがあってもすぐに飽きたり、諦めてしまって長続きしない。

「雨降ってきたな。」

六限目の授業は椅子に座っているだけということしか認識できない。

教室は外を眺めながら暇をつぶす場所にしか思えない。

チャイムが鳴った。

「じゃあ授業を終わります、復習しておいてください。」

教室の扉が開かれ、他のやつらの話し声が混ざり合う。

念願の開放感。

ようやっと帰れる。

「…ぐぅ。」

俺はこの時間に席を立たない。

なぜなら立つ必要なんてないからだ。

いや、立つ気がないからか。

外を眺めたまま座っているだけ。

しばらくして担任が教室に現れて、いそいそと他のやつらも席に着く。

「えっーと、今日は特にお知らせはないです。あ、掃除当番忘れないでくださいね。」

その言葉を聴き、周りのやつらが立ちだしたら俺は動く。

小指でカバンをひっかけてからカバンを手に取る。

結局学校なんてものは暇つぶしだ。

「おーい!おーい!」

「…。」

看板の先輩がすでに廊下にいる。

昨日もそうだった、だがそれも今日で終わり。

俺は堂々と看板の先輩の目の前に歩いた。

「デジタル室に行きましょう。」

「はい!」

冷たく言ったのに元気な返事を返してきた。

そこまでしてなのか。

いくら断って向かってくる。

だから余計に嫌になる。

これを早く解消したい。

「おい!俺を置いてくなよー!」

教室からまた元気な奴が。

「なんでお前も来るんだよ。」

「行かなきゃいけない流れだろ?」

ノリで俺の人生に関与してくるのをやめてくれ。

だが今回はいいか、この先輩と2人きりって恐怖しかない。

「それに雨だから今日筋トレだし、サボれるじゃん。」

いつもに増して元気なのはやはりそういうことだったか。

雨が嫌いになる理由が一つ増えた。

「どうせなら大野君も体験してく?」

「VRゲームやったことないし、入部する気もないけどいいんすか?」

「いいですよ!」

「じゃあそうしようかなー。」

やっぱりこいつが入部すれば解決する話だろ。

廊下を歩いている間、俺だけ何も話さなかったのは看板先輩と楽しそうに会話する大野に嫌悪があったから。

やっぱりお前が入部すればいいじゃん、雨って便利だな。

雨が嫌いになる理由がもう一つ増えた。


グランドにはいくつもの水たまり。

冷めた空気とともに雨粒が横から降ってくる。

「…」

「…」

「…??」

さっきまでの元気はどこに行ったんだ大野。

いや、それだけじゃなく俺たちはどこに向かっているんだ。

雨がコンクリートにあたる音だけの静かさに看板先輩は疑問気にしている。

「ここ?」

「ここです。」

「…??」

高名高校。

もちろん学校の七不思議がある。

そのうちの一つがもう使われていないはずの旧校舎に現れる謎の人影。

噂では旧校舎に入った学生を後ろから肩を掴み、学生が振り向いたらもう逃げられないだとか。

「じゃあ開けますね。」

なんともない感じでカギを回す看板先輩と俺の後ろに隠れる大野。

刺さるような錆びついた音とともに扉が開く。

「っふ…」

耳を塞いでいる俺たちを鼻で笑う看板女。

いままでにないイラつきも今日だけだ。落ち着け。

「か、帰ろうかなー?」

「なんでだ?」

「え、それは…」

背中から離れた大野を消して帰さない。

お前の意図は知っている、さぁどうする。

「やっぱ、筋トレって大事じゃない?」

大野は怖がりだ。

中学の時、肝試しに男5人で森にある廃屋敷に行ったことがあった。

そしたらあいつは…漏らした。

「じゃ、じゃあそういうことでー…え?」

「男の子なら一度決めたことを変えるのはよくないと思いますよ。」

止めたのは看板先輩。

片手で肩を掴んで走り出そうとした大野が固まった。

正直、俺は学校の怪談なんて信じていなかった。

だけど怖くなった。

謎の人影の正体がわかったから。

「はっはっ…」

大野は振り向いてしまった。

そして内股になった。


旧校舎というだけあってかなり古臭い。

一歩足を出せば軋む音がするし、ついでにその音が様々だからまるで楽器のようだ。

あとは雨漏れがいくつかあるのと落書きをたまに見かける。

でも埃っぽくはなかった。

「ここです。」

「保健室…。」

「…ほ、保健室!?」

旧校舎の一階の奥にある。

なんで保健室なんだろう。

看板先輩はまたカギを差し込んで扉を開けた。

結構厳重なのか。

「どうぞ!ここが我がVR部の部室です!」

「おお!」

「…お、お?」

自信満々に開かれた扉の先にはそれはすごい近未来的な空間が・・・あるわけでもないのであった。

普通の保健室。

なんでそんなに自慢げだったんだか。

「入ってどうぞ。」

「はい。」

「ひぃぃぃいい…」

相変わらず床からは音が鳴るし、雨漏れも二つでバケツが置かれている。

机と椅子は木製、ソファはあるけどボロボロ。

カーテンもベットもシミだらけ。

ただ埃一つなく、床は特にピカピカだ。

「あ、電気!」

「はぁ…」

照明がつけられると縮こまっていた大野は胸を張りだした。

わかりやすいやつ。

「てか電気ちゃんと通ってるのか」

「そりゃそうですよ、VRゲームするんですから。」

「そうに決まってんだろぉ?」

VRゲームか。

あーやりたくない。

看板先輩は素早く動き、その準備をしているようだ。

俺はボロボロのソファに腰掛けるだけ。

大野はあたりをキョロキョロ見ている。

「これなんですかー?」

「あ!触らないで!」

大野の両肩を掴んで硬直させた看板先輩。

手のひらサイズの板状の何かが固まった大野の人差し指の先にはあった。

「これは昔の機械で貴重なんですから触らないで!壊さないで!」

「は、はい…」

声を出すのがやっとみたいだ。

これはいい話のネタになるな。


元から静かにしていた俺の隣でほとんど静止している状態の大野が座って数分が経った。

「準備できました!」

最近のゲームってこんなに時間がかかるものなのかと思う。

ウキウキしながら看板先輩は手のひらサイズのベルトみたいな何かを渡してきた。

「なんですかこれ?」

ベルトのわりには少し硬いでも軽い、力をゆっくり加えて曲がるような紐。

「それ手首に着けるの。コントローラーだよ。」

コントローラー。

その言葉を最後に聞いたのはいつだったか。

不思議に思いながら右手首にそれを通して程よく絞める。

「ん?なんか光ったぞ。」

「あーはい。そうですけど。」

コントローラーが青く光りだして驚いている俺。

その横で固まったまんまの大野の手首にコントローラーを絞める看板先輩。

てかいつまで固まってんだよ。

「で、どうすればいいです?」

「えっとこうして。」

いきなり近づく先輩、俺の手をもつと頭を揺らしてコントローラーをいじった。

「これで良しと。」

「あ、は、はい。」

俺も少し固まってしまった。

そして同じようにすでに固まっている大野にもする。

「じゃあ目を閉じて。」

なんで目を閉じるのか戸惑いながらも目をつぶる。

やっぱりゲームってめんどくさいな。


真っ暗だ。

そりゃあ目をつぶってるから真っ暗だよな。

でもさっきよりも暗い気がする。

「…」

看板先輩の指示がない。

目を開けていいのか。

あれ、そもそも目を開けてた。

どうゆうことだ。

もしかしてやっぱりあの先輩って妖怪とかそういう類で俺たちは閉じ込められているのか。

体は…うごいているのか。

感覚はある。

だけど目が見えないから本当に動いているのか確かめようがない。

「ん?」

なんか音がする。

“てれてれてれってってってれれれ“なんかの音が。

「なんだ?」

だんだん周りが明るく…。

「…あれ?」

青い空、緑の野原。

すごい開放感だけど…走り回っている人たちがやかましい。

それにしても何が起こっているんだ。

ここはどこなんだ。

「お、おい!朔夜!なんだここ!」

「うわ!」

いつのまにか隣に大野がいる。

さっきまでとは違う、白いワイシャツに青いジーパンと白いスニーカーという気持ち悪い恰好で。

「っておい朔夜、恰好なんだよ。だっせえ!」

「は?」

俺も同じ格好だった。

なんなんだこれ。

「あー見つけた!」

「…え?」

綺麗な服着た身長170㎝くらいのグラマラスな白人女性がいる。

こっちのほうを指さして言っていたけど、俺たちは真後ろを向いた。

でも変な格好した奴らが忙しなく走っているだけ。

「そこのダサい服の二人に行ってるの!」

悲しくもそんなのは俺たちしかいない。

変とは言わなかったから。

「あれだれだ?」

「こっちが聞きたい。」

俺と大野は小学生からの親友だ、お互いにこんな美人な知り合いがいないなんてことは聞かなくてもわかっている。

だけど明らかに俺たちに話しかけてきたから小学生以前の知り合いの可能性も…あってほしくない。

「だ、だれですか?」

恐る恐る俺は白人の美人に聞く。

「だれって…橋本美咲だよ!」

「…???」

大野と顔を合わしたが、俺と同じだった。

はしもとみさきなんて知らない。

バリバリの日本語名ってハーフだったのか。

「…あれ?わからないの?VR部部長!ほら!」

その言葉に俺たちはもう一度顔を合わせた。

VR部部長と俺たちを知っている人物には見当がある。

だけど誰だよ。

「ひょっとして…看板先輩?」

大野が恐る恐る聞く。

「看板先輩じゃなくて、橋本美咲!あるいはエリザベートです!」

なんとなくわかった。

たぶんこの人は看板先輩だろう。

橋本美咲って名前だったのか。

「見た目違うからわかんないよな、まさか看板先輩とは。」

「そう?」

笑い出した大野の肩を掴んだ美人。

大野の顔色で俺はエリザベートが看板先輩であることを理解した。

「で、ここどこなんですか?」

「ここはね初期ホーム、私たちはXPって呼んでるわ。初めてVRをする人とかゲームへの移動とかに使われる空間です。」

まるで何を言っているかわからない。

そもそもこれってどこなんだ、現実世界じゃないっぽいけど本当にそうなのか。

「とりあえず…ついてきて。」

看板先輩の後ろをついていく。

歩けば足に芝生の硬さ、音がするし、本当に芝生を踏んでいる感触がある。

体にも微妙な風圧があって違和感がない。

一体ここはなんなんだ…。

疑問を抱えながら俺たちは歩いた。



――――後書き――――

この作品は名作です。だから今のうちにフォローしたほうがいいですよ?


半分は冗談です。


この次からバトル入るけどかなり変態です。きっとそんなバトルはもうやらないので、そんなに変なバトルがあるのかと興味の湧いた人だけは見てみてください。


たぶん変なバトルランキング堂々の一位なので。

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