第2話 襲撃

 少女を背負い家に辿り着いたカルキはすぐさまベットに寝かせる。


「少し待ってて」


 カルキは急いで井戸から水を汲み、タオルを濡らして少女の額に乗せる。

 すると、ひんやりして気持ち良さそうな表情を浮かべた。


「一旦これで様子を見るか……」


 カルキはその後も、慣れないながらも少女の看病を続けいつの間にか日が沈もうとしていた。


「そろそろ夕飯の準備をしないとな」


 少し体調が戻ってきたのか、少女は穏やかに眠りついていた。

 何故カルキが初対面の少女にここまで優しくしてあげるのか……それは本人にも良くわかっていなかった。


 突然倒れそうになり、それを受け止めたその時に、カルキは自分が助けなくてはならないという使


「食べやすいように山菜を細かくして麦粥に入れよう」


 細かくした山菜入りの麦粥を作り、カルキは少女が眠る寝室に向かおうとしたその時だった。


「……っ!!」


 何の前触れもなく森の方に魔物の気配を感知したのだ。

 それは、今まで感じたことのないほどの巨大な力の持ち主で、周りの魔物が尻尾を巻いて逃げていく。


「まずい……こっちに近づいてきてる!!」


 感知した魔物は真っ直ぐにこちらへと向かっており、カルキは剣を手にして外に飛び出した。


「戦うしかないな……」


 少女がいる寝室に視線を一瞬向け、魔物の方に視線を戻す。

 数秒後に全身灰色で赤い眼を持つガーゴイルが滑空して地面に降り立った。


『あの家に女子がいるだろう? 大人しく俺に渡しな?』


 身長はカルキより僅かに小さいが、その辺にいる魔物とは、強さの桁が違うであろう威圧感が実際よりも大きく感じられた。


 そして魔物が人間も捕食対象であり、特に女子の肉が好物なのである。


「悪いが彼女を傷つけるのであれば容赦はせんぞ」


 カルキは剣を抜き刃をガーゴイルに向けるも余裕そうな笑みを浮かべる。


『容赦しないか……その鍛えられた筋肉から見てお前剣士だろう? それも並以上の実力の持ち主だな』


 ガーゴイルは赤い眼でカルキの強さを見抜いた。

 自分の強さに酔っている哀れな剣士などではなく、ひたすら強さを求めて修行をしている良き剣士だと理解した。


『力がある者は相手の実力を測ることが出来る……弱者ほど見抜くことが出来ずに命を落としていくが、お前は違うだろう……』


 翼をゆっくりと広げて戦闘態勢に入るガーゴイル。


『見させてもらうぞ……将来有望であろう若き剣士の力を』


「…………」


 涼しい風が吹き、枯れ葉がゆっくりと落ちていき地面に着いた時、両者は同時に動く。

 ガーゴイルは回転しながら突進して鋭いクチバシでカルキの身体を貫こうとしている。


(速い!? やはりこいつは!!)


 かろうじて剣で防御することに成功したものの、後少し遅ければ……間違いなく重傷であっただろうと思うカルキ。 


『いいぞ良く避けたな!! さぁお前の力を見せてみよ!!』


 再び回転しながら突進してくるガーゴイルにカルキは深呼吸をして冷静になる。


「ふぅぅ……月影つきかげ


 動く素振りを見せないカルキにガーゴイルは困惑しながらも、そのまま突っ込んでいき身体を貫いたその時だった。


『これは残像か!!』


 貫いた時に初めてガーゴイルは実体ではなく、残像を貫いたのだと理解した。


「はぁっ!!」


 ガーゴイルの背後に回ったカルキは首を斬ろうとするも、飛翔することで回避された。


「くそっ……後少しだったのに」


 悔しがるカルキを見下ろしてガーゴイルはゆっくりと地上へと滑空していく。


『ヒヤリとしたぞ……相手の動きを見抜き直前で回避することで、残像を生み出すとはな危うく首を斬られるとこだった』


 カルキが先程繰り出した剣技、月影つきかげはガーゴイルが説明した通りである。

 主に回避に使われる剣技で、背後に回り相手に反撃を繰り出すことも出来る。


『さて、第二ラウンドといこうか』


 地上に着地したガーゴイルは、余裕の表情を崩さずにカルキを見つめる。

 想像以上の強敵を前にカルキは、無傷で倒せる相手ではないと理解し、覚悟を決めるのであった。

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