第3話 芸術家
彼はその人生のすべてを芸術にささげた。まさに人生そのものであった。美の女神ミューズに魅せられたのはいつからだったろうか。幼少のころには、様々な技法を学び、感性を磨くために多くのことを体験した。そして、彼もミューズから多くの寵愛を受けていた。彼の技法は青年期に円熟を達するほどであり、芸術性も超一流であった。だが、時の神の恩恵は受けられなかった。彼が新たに作品を作り出しても、偉大な先人たちが既に表現しており、彼の作品は模倣と評価された。もし、彼が千年前に生まれていたら、最も優れた芸術家として歴史に名を遺しただろう。模倣と言われようと、最高の技術、最高の芸術性を持った彼の作品は「電脳芸術家」を超え数多くの作品がCランクの評価を得ていた。「美術目録では」Cランクに収納される作品も数の制限から、同じ作品の模倣であれば、より優れた作品と差し替えられ、それに劣る作品はDランクと評価される。その彼ですらBランク、ましてやAランクの評価を得ることは敵わなかった。このことは同時代の作家たちを絶望に導き、彼を除くすべての人間が創作の道を諦めてしまった。だが、彼は決して創作意欲を失うことは無かった。絶望の中、創作を続ける彼こそが、この時代、唯一の芸術家だ。
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