第2話 美術鑑定人
このような状況を打破すべく現れたのは、通称「美術鑑定人」。莫大な作品を客観的かつ公平に判断していった。その正体は次世代型AI、機械学習だけではなく、内部に自らの価値観や複数の自我を作り上げ、統合や分裂を繰り返し、非常に信頼できる判断を行えるように進化したAIである。当初は、専門家や評論家からは、機械如きに作品から伝わる情熱やメッセージなど理解出来る訳がない、画一的な上手下手などの評価になるだろうと懐疑的であった。しかしながら、莫大なデータと自我同士による議論と対話により芸術センスは洗練され、しかも利害関係による配慮や思い込みも無いため、非常に公平な評価ができた。さらに、最後まで反対していた、大家と呼ばれる専門家の推薦した作品に盗作が発覚したことにより、多くの人が人間よりもAIの評価に信頼を置くようになった。
「美術鑑定人」は厳格な評価基準を設けた。作品の技術的な部分と芸術性に分け、双方ともに優れたもの、若しくはいずれかが卓越したものをAランクとし、技術力、芸術性のいずれかが優れたものをBランク、A若しくはBランクの模倣をCランク、模倣の中でも稚拙なものや評価に値しないものをDランクとした。この「美術鑑定人」によるデジタルアーカイブ「美術目録」では、A及びBランクは併設したバーチャル美術館で常設展示を行い、Cランクはデータベースとして保管。Dランクはアーカイブにも登録されず破棄となった。これにより、人々は良質な芸術作品に酔いしれることができるようになった。
一方で「美術目録」が運用されてから産み出された作品は、大部分がCとDランクであり、僅かにBランク、ごく稀にAランクと判定される作品もあった。だが、時代を経るとともに、Aランクの判定は激減し、さらに、AIの創作世界の進出によって、現れた多くの電脳芸術家達により、短期間で莫大な作品を生み出された。彼らは、数多の過去の名作を模倣し、その技術、モチーフを学習し、それらを組み合わせ、網羅することで、膨大な作品を輩出した。その結果、「美術目録」ではここ数十年はBランクの作品すらでなくなり、ほぼ全ての作品は無価値のDランクと判定された。
人間の想像力や芸術性は限界に来たのであろうか。数多の芸術家たちが、この壁に挑みそして悉く敗れ、この世界から去って行った。だが、彼は諦めなかった、彼こそがこの世界に残された最後の芸術家である。
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