第211話 涼への相談と深夜のガールズトーク

 ◆黒羽栞◆


 いつもの寝る前の涼との電話、そこで美紀と会った時のことを報告した。


 一人でも平気だったことを伝えると『そっか、すごいね栞は』って、誕生日プレゼントをもらったことを伝えると『良かったね』って言ってくれたの。


 思っていた通りに褒めてくれて、自分のことのように喜んでくれてた涼はやっぱり優しい。もう、大好きっ。


 そこまではいい。問題はここからなんだよね。


「──ってことがあってね。なんか美紀がすっごく必死そうだったから、どうにかしてあげたくって」


『うーん……。デートをどうしたらいいか、ねぇ……』


 美紀と藤堂君のデートの話になると、涼も困ったような声になっちゃった。


「うん。美紀もこういうの初めてみたいでテンパっててね」


『俺もアドバイスできそうなこと、ないんだけどなぁ……』


「私もそうだよ。ほら、私達ってあんまりデートとかしないしね」


『俺の部屋でダラダラしてるばっかりだもんね』


「そうなの……」


『……えっとさ、俺の正直な考え、言ってもいいかな?』


「うん、言ってみて?」


『じゃあ……。自分達の思うように、好きなようにやったらいいと思う』


「……」


 だよねぇ。私だってそう思うもん。デートに誘うことができたなら、二人で好きなところに行って楽しんでこればいいって。身も蓋もないけどね。


『でも、それだけじゃダメなんだよね?』


 さすが涼。私の考えてること、よくわかってる。こういう時、すごく頼りになるなぁって感じるの。答えが出るかどうかは別としてね。


「うん……。できれば上手くいくように、少しでも手助けしてあげたい、かなぁ……」


『ちなみにだけど、その予定はいつなの?』


「えっとね、来週の土曜日だね」


 行く場所はまだ決まってないみたい。


『なら、まだ時間はあるのね。わかったよ、一応俺の方でもなにか考えとくね』


「ごめんねぇ、私のことなのに」


『いいよ。栞のことなら俺にも無関係じゃないしさ。藤堂のためって思うと、ちょっと複雑だけど……』


「あ、あはは……。それは言ったらダメだよ。まぁ、私もちょっとだけ、ね……?」


『ほら、栞だってそう思ってた。でも、一番は栞の大事な新崎さんのためだもんね、真面目に考えるよ。とりあえず今日はもう遅いしさ、また相談するってことにして、もう寝よ?』


「そうしよっか。ありがとね、涼」


 それからおやすみを言い合って電話を切ると、私はリョー君を抱きしめて横になった。


 天井を見上げながら考える。


 美紀の初デート、できることなら一生忘れられないような思い出になって、ついでに藤堂君とも上手くいけばいいなぁって思う。美紀は藤堂君に運命を感じている気がするから。私の勝手な予想だけどね。


 そのためにも、ためになることを言ってあげたい。せっかく私を頼ってくれたんだもん。


 さっきも言ったけど、私達はあまり外に出かけない。お互いを感じて穏やかな時間を過ごすだけで満足しちゃうから。


 それでも、しっかりしたデートという名目で出かければそれはそれで楽しいの。私ってこんなふうだったっけって思うくらいはしゃいだりもする。


 自分の直近のデートのことを思い出す。温泉街のスイーツ巡り、そこに限定せずに旅行全体のことも。


 昨日と一昨日の出来事だから記憶はまだ鮮明だけど、たぶんどれだけ時間がたってもあの二日間は忘れることはない。


 そう思うほど楽しくて、幸せな時間だった。


 じゃあ、それはなんでなんだろう?


 もちろん、私にとって涼が大好きな存在だからっていうのはあるけれど、それだけじゃない気がするんだよね。場所が違う、っていうのでもなさそう。おうちでのんびり過ごす時と、デートの時、それを明確に分けるなにかがあるの。


 なんとなく、答えが喉まで出かかっているような感覚はあるのに、正解に辿り着けない。


 うーん……、ダメだぁ。眠くって頭まわらなくなってきちゃった。これ以上考えても出てこなさそう……。


 明日も涼を起こしに行かなきゃだし、今の感覚だけ覚えておいてもう寝よう。


 そう思って目を閉じた時だった。


 ──〜〜♪


 枕元に置いたスマホから着信を告げるメロディが流れた。


 ……あれ、涼かな? なにか思いついたのかも。


 発信元も確認せずに通話ボタンをポンッと押して耳に当てると、


「しっおりーん!」


 涼じゃなくて、彩香だった。


 こんな時間なのに、朝みたいに元気いっぱいな声なのはなんでなの?


「……こんな時間にどうしたの? 寝ようと思ってたところなのに……」


『ありゃ。それは……、ごめーんねっ?』


 謝ってるくせに全く悪びれた様子がない彩香にため息が出そうになる。せっかく涼のおやすみで気持ちよく寝れそうだったのに。


「で、用件はなぁに? できれば手短にお願いしたいんだけど……」


『手短は無理かなぁ。いやね、結局お昼に話聞けなかったからさ、ガールズトークでもしようと思ってっ! ちなみにさっちんも呼んでるよっ!』


『あの、えっと……。栞ちゃん、ごめんね……。私もね、止めたんだけど……』


 どうやらグループ通話だったみたいで、申し訳無さそうな紗月の声が聞こえてくる。


「紗月は悪くないよ。こんな彩香、私でも止められないもん……」


 止められるとしたら、柊木君くらいなんじゃないかな?


『へへっ! ってことで、今なら男子達もいないしさ、休みの間のこと皆で話そうぜっ』


「今じゃなきゃダメ……?」


『ダメダメ! 気になっちゃって眠れそうにないからね! 私の安眠がかかってると思ってさ!』


「もう、わかったよぉ……、ちょっとだけだよ?」


 こうなったら少しでも満足してくれないと彩香は寝てくれなさそうだしね。


『そうこやくっちゃっ! じゃあ、まずはさっちんからいってみようか!』


『えぇっ、私からなの?! こういうのは言い出しっぺの彩ちゃんからなんじゃないの……?』


『だって、さっちん達が一番初々しいじゃん。私としおりんの後でとか、さっちん話せる?』


『……無理かも』


『だからね、さっちん、私、しおりんの順でいくから!』


「ちょっと待って。私が最後なのはなんで……?」


『そりゃ話題てんこ盛りな気がするからだよ!』


「……」


 否定は、できないよね。というか、話したくてウズウズしてたタイミングでのこれ。ちょーっと我慢できなさそう。


『さて、しおりんが納得してくれたところで、さっちんよろしくぅー!』


『うぅ……。私、きっと二人に比べたら全然大したことないよ……? それでも、聞きたい?』


『もちっ!』


「ごめんね、紗月。私も気になるかも」


 さっきから紗月の声が恥ずかしそうなんだもん。これは絶対になにか漣君と進展があったと見るべきだよね。


『栞ちゃんまでぇ……。もう、わかったよぉ……。あの、えっとね、かづくんとデートしたのはもう言ったよね? 実はその帰り際にね……、かづくんから、初めてのキス、してもらいました……』


 紗月の告白に彩香も私も色めき立つ。


『おーっ! やったね、さっちん!』


「わぁっ、良かったね、紗月っ。おめでとう!」


 いつだったか、熱心に私の初キスの話聞いてきたもんね。ここまで長かったような気もするけど、友人カップルが上手くいっているのを聞くと私も嬉しいよ。


『でー、どうだった? 初キッスの感想はっ』


『それはー……、なんかすごかった。一瞬だったんだけどね、ふわふわして、胸がきゅぅってなって……』


 最初は恥ずかしがっていた紗月だけど、話しているうちに乗ってきたみたいで、惚気が止まらなくなっちゃった。でも、わかるよ、その気持ち。私も最初はそうだったもん。ううん、今でもかな。幸せ、感じちゃうよね。


『それじゃ、次は私かなっ!』


 紗月があらかた話し終えたところで順番は彩香にうつった。


「彩香は、柊木君が一日素直になってくれたんだっけ?」


『そうなのっ! 突然ね、俺もちょっとは涼を見習おうと思う、とか言い出してさぁ。それでいっぱい好きって言ってもらったのー!』


『柊木君がそんな感じなの、あんまり想像できないよねぇ。体育祭の日のお昼にちょっと見ただけで』


『でしょー? でねぇ、好きって言ってくれるたびに真っ赤になってて、それがもう可愛くってさぁ! 我慢できなくて襲っちゃったよね!』


『ふぇっ?! あ、彩ちゃん……?!』


 紗月がすっとんきょうな声をあげるけど、こんなのまだ話の入り口じゃない。


「紗月、まだその内容聞いてないからね?」


『えぇっ?! 詳しく、話すの……?』


『んふふっ、聞きたいのかなぁ?』


「彩香、そこまで言ったなら話さなきゃダメだよ?」


 やっぱり女子だけだとどうしてもあけすけな話になっちゃうよね。私もほら、涼との参考にしたいし? 興味津々だからさ。それにどうせ私のも話すんだし、聞かなきゃフェアじゃないじゃない?


 深夜のおかしなテンションのせいで、あまり話さないという涼との約束は頭からすっぽり抜け落ちていた。


『ふぁぁ……。彩ちゃん、すごいよぉ……』


 赤裸々に語られた彩香の話に紗月はしどろもどろ。私はちょっと拍子抜け、かなぁ。


 だって、私達の方がすごかったんだからっ!


 謎に張り合ってみたりして。

 そして、満を持しての私の番。スイーツ巡りの話なんてもうそっちのけだよね。もちろんスイーツ巡りは最高だったよ? でも、ここで話すべきはそれじゃないと思うの。


「私はねぇ、えへへ、たくさん涼に愛してもらっちゃったのぉ……」


『ほほぉ……。たくさんって、どれくらいなのかなぁ?』


『し、栞ちゃん?! 私、もうっ……』


「んふふっ、だーめっ。ちゃーんと聞いて、漣君との今後に活かしてね?」


『あわわっ……』


 ここに私を止めてくれる涼はいない。おまけに一番眠い時に叩き起こされて、おかしなところにギアが入ってる。おかげで、休憩を挟みながらだけど夜通しだったこととか、ざっくりだけど話しちゃった。


 まぁでも、


『うにゅ……、しおりん、もうお腹いっぱいだよ……。そろそろ……、ぐぅ……』


『きゅぅ……』


 彩香は途中から半分寝てたみたいだし、紗月に至っては話が過激すぎて意識失っちゃってたみたいだから、あんまり聞いてなかったかもね。そんなグダグダな感じで、深夜のガールズトークは幕を下ろした。


 それからこれは自業自得なんだけど……。


「うぅ……。なんかウズウズしてきた……」


 身体もあの時のこと思い出したみたいで、なかなか寝付けなかったよね。

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