第56話 告白祭

 全校集会なあんて普段は長ったらしくて早く終わらないものかと思っていたのに、今日に限ってはその逆。夏休みの間に行われたであろう部活の大会の表彰や、生活指導の先生の話で結構な時間がかかったはずなのに、この後のことを考えていたらあっという間に終わっていた。


「さぁーて! それじゃお話聞かせてもらいましょうか!」


 全校集会が終わって、教室に戻ると先生はもう待ちきれないといった様子だった。


 うっかり忘れてくれてくれればという、俺の淡い期待はもろくも崩れ去ってしまったわけだ。


「えっと……、それで何が聞きたいんでしょう?」


「そりゃ、全部でしょ。だって二人とも変わりようがすごいし」


「まぁ、それは否定しませんけど……」


「あっ、さっきのっていじめとかじゃないよね? 皆に嫌がらせでやらされてたりしないよね?」


「それは……、一応私達の意思です……」


 今度は栞が答えた。いじられた結果ではある気がするけども、確かにあれは俺達の意思だった。周りが見えなくなっていた俺達が悪い。


「なら経緯くらい教えてよ。これでも今まで二人のことは心配してたんだからね? といってもどうしていいのかわからなくて、何もできなかったんだけどさ」


 こう言われると、俺達としても弱いわけで。


「「ご心配おかけしてすいません……」」


 そろって頭を下げることになった。


「おぉ、息ぴったりじゃない! やっぱり二人は付き合ってるのね?」


「それはそうなんですけど……」


 俺達が付き合ってるかどうか聞いた時、一番先生の顔がイキイキしてる気がした。


「栞、どうする?」


「もういいよ。さっさと全部話して終らせよ? 私疲れちゃったから、早く帰りたい……」


「それもそうだね……」


 俺が肩を落としながら同意すると、栞がスッと寄ってきてこそっと言う。


「ねぇ、涼。帰ったら甘えさせてね?」


 栞にそう言われれば、やる気が湧いてくる、わけではないけど、早くこの場を終わらせようという気にはなる。


「ん、わかった」


 俺も今日は精神的にぐったりなので、栞に癒やしてもらいたいと思う。栞と二人きりの時間はドキドキはするけども、心穏やかでいられるのだ。


「相談は終わった?」


「えぇ、まぁ。それじゃあ、最初から……」


 俺達の馴れ初め話をクラス中に聞かれるのは恥ずかしいけど、どうにか耐えつつ。我ながら強くなったものだ。前までなら、こんな目にあったら叫んで教室を飛び出していたかもしれない。


 基本的に俺が話して、栞が補足を挟むようなかたちで話を進めた。栞の問題については栞自身が話したけれど。


 俺と栞が初めて言葉を交わしてから、今日に至るまで。言葉にしてみるとなんてことなくて、あっという間に感じるけど、実際にはここまでくるのには色んな葛藤があったりして。


 もう一度丁寧に記憶を辿ったせいで、また一段と栞のことが大事に思えるようになった気がする。それは栞も同じなようで、気付いたら手を握られていた。


 俺達が話をしている間は誰も騒いだりせず、静かに耳を傾けてくれていて、途中で遥と楓さんの名前を出した時に、二人がびっくりしていた程度だ。



「と、こんな感じですけど……、って先生?!」


 俺達がどうにか話し終わると、先生が号泣していた。


「いい話じゃない……。思わずうるっときちゃったわ……」


 うるっとってレベルじゃないと思う。ハンカチまで出して、ボロボロこぼれる涙を拭ってるんだから。


 そこまで泣くような話だっただろうか……。栞が思い出して泣くならまだしも。だいぶ掻い摘んで話したつもりだったのに。


「先生……? 大丈夫ですか……?」


「大丈夫……、じゃないかも……。だって愛が二人を変えたのよ。私こういうの弱いのよね……。うんうん、やっぱり恋っていいわねぇ……」


 先生は一人で納得し始めて。俺達の話なんてもう聞いてもいない感じだ。この先生のことだ。こうなるとろくなことにならない。


 例えば、連城先生の授業中に誰かが旦那さんのことを聞いたら、惚気が始まって授業がつぶれてしまった。誰が止めても全く耳に入ってない様子で、一人でずっと語り続けていたのだ。


 今はその時の感じに似ている。


「やっぱりね、皆みたいな年頃は恋愛するべきなのよ」


 なんか語りだしちゃったよ……。そういう決めつけは良くないと俺は思う。


「というわけで、不肖この連城茜が皆にその機会を作ってあげます! この二人にだけこんな話させるのも可哀想だしね!」


「いや、そういうのいいんで、もう終わりましょ……?」


 疲れ切った顔の栞が止めるけど、先生の耳には届かない。俺としても早く帰りたいので栞に賛成だ。半分諦めてるけどね。


「今なら気になってる人に想いを伝えられるんじゃない? というわけで告白祭いってみよー!」


 ほら、やっぱりろくなことじゃなかった!


 でも確かに先生の言う通り、俺達だけ恥ずかしい思いをするのは不公平な気もする。


 それについさっきそんな話をしたやつもいるわけで。


 漣の方を見ると目が合った。視線だけで、『いけ!』と合図を送ると、漣はイヤイヤと首を横に振る。


 呆れたやつだ。俺だって恥ずかしいのを我慢して色々暴露したというのに……。



 ◆黒羽栞◆



 まーた先生がろくでもないことを言い出した。こんなんで教師やってていいのかな? クビになっていないところを見ると大丈夫なんだろうけど。


 その辺りは私には関係ないからいいけどね。


 それよりも、告白だよ! さっきそんな話をしたばっかりだよ。紗月を見ると目が合った。紗月はゆっくりと頷くと手を上げた。


 偉い! 頑張れ!


 私は心の中でエールを送った。うん、他人事だと思うとちょっと楽しい。


「おっ! じゃあ橘さん!」


「はい!」


 なんだろ……、この授業みたいな感じは……?


「漣君、ずっと好きでした! 付き合ってください!」


 紗月がそう言うと、女子からは紗月を褒め称える声が。


 ──やっと言えたじゃん! 偉いぞー!

 ──焦れったかったもんね、頑張ったじゃん!


 こんな感じで。


 逆に男子からは漣君に呆れたような声が。


 ──あーあ、ついに言わせちゃったよ……。

 ──情けないぞー!

 ──漣、お前ってやつは……


 なんかこの二人のことは皆知ってたみたいな感じ。たぶん今日まで知らなかったのは私と涼だけなんだろうね。


「漣……」


 私の隣で涼も漣君にがっかりした顔をしていた。


 私達の時も先に伝えたのは私なんだけど、というのは黙っておいた。だってその後格好良く受け止めてくれたんだもん。不満なんてなんにもないからね。


 ここまで皆から言われて、ようやく漣君が立ち上がった。


「橘さん、言わせちゃってごめん……。俺も好きです!」


 漣君がそう言うと、教室内は大盛りあがり。結果はわかってたみたいだけどね。


「はいはーい。まずは一組目ね! さぁ、まだまだいくよー!」


 先生もますますヒートアップして。この騒ぎはしばらく続くのだった。


 あ、また私に声をかけようとした人は、私の名前を呼んだ瞬間にお断りしましたよ!

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