第39話 デートに戻ってお昼ご飯
◆黒羽栞◆
話を終えて解散した後も私達ははそのままカフェに留まっていた。話疲れたのでもう少し休んでいこうということになったのだ。
ついでにいい時間になっていたので、お昼ご飯も済ませていくことに。
「栞は何食べる?」
「うーん……、どうしよ。カルボナーラかボロネーゼか……」
私はこういう時、結構優柔不断なんだ。なかなか決めきれない。
「じゃあ両方頼んで二人で分けようよ」
「涼はそれでいいの?」
「うん。俺はどっちも好きだしね」
「じゃあ……、それでお願いしようかな」
こうやって優しくされると、また更に好きになっちゃうんだけど。
涼が店員さんを捕まえて注文してくれて。たぶんこういうのも苦手だったはずなのに。私のために頑張ってくれてるのかなって思ったらまた……。まぁ、これは今更なんだけどね。事ある毎に私の想いは増していくばかりなんだから。
注文した料理が届くと、涼が取り分けてくれる。さすがに外で食べさせ合ったりするのは恥ずかしいからできないけど、いずれはしてみたいなって思う。でも、これでようやくデートらしくなってきた。
あの二人に出会ってしまった時は本当にどうしようかと思った。夏休みに入ってから涼のことと自分のことでいっぱいいっぱいだったから、まさかクラスメイトに会うなんて思ってなかったんだもん。けど涼が背中を押してくれて、最終的には友達にまでなってしまった。しかもこんなにあっさりと。彩香達の人柄もあるんだろうけど、私は涼のおかげだって思っている。こういう時、涼は本当に格好良くなったと感じるんだ。
私はパスタをフォークでクルクルと巻きながら、真横に座る涼の顔を覗き込んだ。今の私はそれだけでドキドキしてしまうんだけど、涼は口の端にソースをつけていたりして。こういう不器用なところは涼の可愛いところだ。格好良くなったと思った矢先に抜けてるところを見せられて、そのギャップにもやられてしまう。どんな姿を見ても好きに繋がってしまうのだから、我ながらどうかしてると思う。
「涼、ソースついてるよ? 拭いてあげるから、ちょっとこっち向いて?」
「え? いや、それくらい自分で……」
「いいから、ほら」
ちょっと強引に顔をこちらに向けさせて、ペーパーナプキンで口元を拭ってあげた。涼は恥ずかしそうにしながらも受け入れてくれる。
「ごめん、ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして。本当にしょうがないんだから」
こういうのも楽しいなって思う。母性本能がくすぐられるっていうのかな? もちろんこんなことするのは涼に対してが初めてなんだけど。自然とそうしたいって思ってしまった。
これくらい涼のしてくれたことに比べたら全然どうってことはないんだけど。むしろ涼のお世話ができて私のほうが嬉しいくらい。こんな感情も初めてだ。
涼といるだけで私の世界はどんどん変わっていく。涼は私の心の中の暗闇を見つけては、あっという間に明るく照らしてしまうんだ。
本当にどうなってるんだろうね?
私の心の中が見えるのかな?
「涼はすごいね」
気付けばそう溢していた。
「えっ? 俺そんなに口まわり汚してた?」
天然なのか、わかってやってるのか、涼からは的はずれな答えが返ってきた。
この人は本当に鈍いんだから。いや、鈍かったら私の望んでることばかりしてくれるはずないか。でもそれもやっぱり天然でやってるのかな? うーん、わかんない。
「そういうことじゃないよ。今日のこともそうだし、いつも私のこと助けてくれるんだもん」
「そりゃ……、栞は俺の好きな人、だからさ。栞が困ってたらどうにかしてあげたいって思うよ」
「もう、そういうところだよ」
こうやってすぐさらっと言えちゃうんだから、困ったものだ。今の私の心臓の音を聞かせてあげたいよ。きっと朝に聞いた涼の鼓動より早くなっちゃってるんだから。私がしたみたいなことをさせるのは、まだちょっと勇気が出ないから無理だけどね。
けど、いつかはそういう触れ合いもしてみたいと思っちゃう。涼の頭を胸に抱いて、私の心音を聞いてもらいながら、私は涼の頭を撫でてあげたりして……。想像だけで幸せな気分になる。
涼のことを考えるとやりたいことがいくらでも出てくる気がする。
「??」
でも、涼は全然わからないって顔をしていて。
「わからないならいいんだよ」
涼の優しいところも格好良いところも、全部私がちゃんとわかってるからね。
「ねぇ、登校日、もうすぐだよね?」
「あー……、そうだね」
「私、頑張るからさ。涼もちゃんと私のこと見ててくれる?」
「それは、もちろん。栞のことだけ見てるよ」
私のことばかり気にして、涼自身のことが疎かになったら、それはそれで困るんだけど。
不安なことが全部なくなったわけじゃない。でも涼がそばにいてくれて、私のことをちゃんと見ててくれるならなんとかなるって思えるんだ。
私が今のままじゃいけないのもわかってるし。どんどん自信をつけて、先に進んでいってしまいそうな涼から、私も振り落とされないように頑張らなきゃいけない。
ずっと一緒にいたいもん。こんなところでウジウジと立ち止まっていられない。それくらい私は涼のことが好きなんだから。
まぁでも、今は目の前のデートだ。もっと涼のことを好きになりたいし、私のことを好きになってもらいたいからね。
「ねぇ、涼?」
「ん? なに?」
「ちょっと寄り道しちゃったけど、ここからは目一杯楽しもうね?」
「う、うん。わかったよ」
今の私にできる精一杯の笑顔を向けると、涼も戸惑いがちに笑ってくれた。
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