2章 正義の味方育成計画

1 朝食

「おはようっす啓介さん」


「うーっす、おはよう灯。どうだ調子の方は」


 翌朝、影村重工の社員食堂にて朝食を頂いていた啓介の元に灯がやってくる。


「昨日よりはだいぶ調子良いっすよ。腕以外は大体完治して治癒にあんまり体力持ってかれないっすからね」


 言いながら啓介の前の席を陣取った灯は、少々心配そうに尋ねる。


「啓介さんの方は体調ぶっ壊れたりしてないっすか?」


「流石に昨日の時点じゃ結構しんどかったけど、寝たらほぼ治ったわ」


「嘘っすね」


「あー流石にお前にゃバレるか……そうだな、ある程度治った」


「これは……ほんとか嘘かどっちっすかねぇ」


「まあ動けてる程度には大丈夫だよ。それはこの通り間違いねえだろ」


 灯の言葉にそう答えながら、少しでも体力を回復する為に米を喰らう。

 食事にそうした意識を向ける位には昨日の訓練は厳しい物だった。


 度を越して難しい事をやっていた訳では無いが、そもそもブーストギアを長時間使用する事自体が肉体的にも精神的にも負荷が大きい事だった訳で。

 インターバルを挟みながらの訓練だったものの相当に体力は削られる。


 訓練相手がずっと柏木だった訳ではなく、インターバルの度に交代要因がやって来ていたのを考えると、交代なしで動き続けるハードな訓練だったのだと改めて感じる。


「しっかしブーストギアを使うの初めてなのにピンピンしてるのは凄いっすね。使用時間とか色々と聞いたんすけど、慣れてない内は少し使うだけで翌日ヘロヘロになってるし、そもそもそんな長時間も使ってられないんすけどね」


「まあ毎日ランニングと筋トレしてるからな」


「あ、なるほどっす……いや、関係あるか? んん?」


 実際あまり関係ないとは思う。

 なにせ昨日長時間頑張れたのはシンプルに頑張りたいと思っていたからだ。

 今日のコンディションも思った以上に回復していて動けるというだけで、普通にしんどい。

 だから9割5分程はただの根性論。

 気合いだ。


「まあとにかくお疲れ様っす。ああ、柏木さん達褒めてましたよ。スジが良いって」

 満足げに胸を張ってそう言う灯。


 その反応は……多分柏木達に直接褒められるよりもきっと嬉しい。


「スジも良くて想定以上に長く訓練もできて、柏木さん達も大満足みたいっす。元々昨日の段階じゃ最低限度の事だけを教えるつもりだったみたいっすけど、もう脱初心者っすね。啓介さん、勉強とかスポーツもっすけど、すぐに何でもコツ掴んでできるようになるのは凄いっすよ。マジリスペクトっすよ」


「いやいや、そんな事ねえよ」


 自分の事をそういう風に持ち上げてくれる灯に対して内心感謝しつつも、やがて静かに思う。


(本当にそんな事ないし……それに本当にやりてえことは一切できないんだけどな)


 勉強ができてもスポーツができても、SF染みた変身アイテムがすぐにある程度馴染んでも。

 本当に欲しい力にはまるで手が届かなかった。

 そんな連続だった。


 そして啓介が内心そう呟いたように、灯も声のトーンを落として落ち着いた様子で呟く。


「……とはいえ実は結構複雑なんすけどね。啓介さんが褒められるのは嬉しいっすけど」


「大丈夫、うまくやれるよう頑張ってみるから。その為の訓練でもあるだろ」


 灯的に啓介がこの作戦に参加する事が心配の種でしかない事は昨日の時点で分かっている事だから。

 自分が最低限以上、ましてやそれ以上に動けると判断されたのならきっとすぐに実践だ。

 灯の心情もそれなりに理解できる。


 それでも……理解していても、今回は我を通すが。

 結果的にそれが灯の助けになる筈だから。

 きっとその筈だから。

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