7 隠し事

「それで、私だけ残して何の話ですか? 話というか、正直一発ぶん殴られても文句を言えないような事を私達はしていますが」


「……しないっすよ。するわけ無いじゃないっすか柏木さん達に」


「……お嬢様はもっと怒っても良いと思いますよ?」


「確かに目茶苦茶不満はあるっすけど……これでも皆の事は信頼しているつもりなんで」


「ありがとうございます」


 微かに笑みを浮かべてそう言った柏木は改めて灯に問いかける。


「それで、啓介君を外してどんなお話を?」


「ひとつお願いがあって」


 灯は一拍空けてから言う。とても弱々しい声音と表情で。


「柏木さん達の目的が何なのかは分かんないっすけど……あの事だけは啓介さんに言わないでください。それだけはほんとお願いするっす」


「……言うつもりはありませんよ。ただ……国内に居ようと海外に居ようと、いずれは耳に入るような事ではありませんか。お嬢様の方から啓介君に話してしまわれたらどうです? ご自分が何をしようと思っているのか」


「言えるわけ無いじゃないっすか!」


「……」


「言える訳無いっすよ……そんな事」


「だったら……」


 柏木は少々言いにくそうに灯に告げる。


「……止めたって良いじゃないですか。まだ引き返せますよ」


「……駄目っすよ、それはそれで」


 灯は弱々しいながらも、強い意思の籠った声音で言う。


「私の我が儘を通して良い状況じゃないんすから。やらないと、やれる事をやれるだけ……話はこれだけっす。啓介さんの事、よろしくお願いします」


 そう言って灯は一足先に会議室を出ていく。

 その外で恐らく、今浮かべていたような重苦しい表情なんて一切感じさせないような明るい振る舞いを幼馴染に見せているのだろう。

 そんな主人の幼馴染に向けて、柏木は静かに呟く。


「臆病なあの子を強くしたのはキミなんですから。責任取ってくださいよ、啓介君」


 深く重い感情を託すように。

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