3 守護者と世界の危機
その後、灯に連れられて近くの誰も居ない小規模な会議室にやってきた。
「どこか適当に座ってほしいっす」
「ん、じゃあこの辺に」
本当に適当に近くの席に陣取り、周囲を見渡す。
会議室の中に特別資料などが置かれている様子は無く、あるとすればプロジェクターが一台。
(……何か映像でも見んのかな?)
そう考えていると隣の席に灯が座り、啓介の方に向き直る。
「よいしょっと。さて何から話すっすかね。えーっと……」
話を軽く纏めるように間を空ける灯。
「ああ、そこのプロジェクターとかで映像映すとかじゃねえんだな」
「そりゃ急にそんなの用意できる訳ないじゃないっすか。いや、探せば何かあると思うんすけど、絶対専門用語だらけで頭痛くなる奴なんで駄目っす」
「じゃあ何で会議室に?」
「一番近くにある椅子とかある部屋が此処だったんで」
「……お前怪我してるんだからさ、この形式なら電話で良くなかったか?」
「駄目っすよ、大事な話する時は対面でやるっす! その方が絶対うまく話せるんで!」
そう言った後、改めて考えを纏めるように一拍空けてから灯は話を切り出す。
「とりあえず今、滅茶苦茶世界の危機なんすよ。そりゃもうえげつない位に」
「なんか軽いなぁ……」
「いやだって啓介さんとの会話で無理に肩に力入れる必要なくないっすか? それともなんすかね。もっとシリアスな感じの方がお好みっすか?」
「いや、お前がやりやすいようにやってくれりゃそれで良いわ。てかその方が良い」
「ん、じゃあこのままで。知っての通り私固い話苦手なんすよ頭痛くなるから。で、話してたのは世界がヤバい所まででしたね」
そしてせめて口調だけは軽いまま、灯は言葉を紡ぐ。
「ざっくり説明すると一年位前から異空間からガチな化物がカチコんで来てるんすよ。それもエグい位の強敵っす」
言葉選びは物凄く軽いが声音と表情は重い。
それだけで、この話が軽口でも混ぜなきゃやってられないような話なのだと察する。
そして察した事はもう一つ。
「じゃあその怪我はその化物にやられたのか」
「そんな感じっす。今回のも無事倒せはしたんすけど、危なかったっすね。えっと……か、片腕……へ、へし折られてぷらーんってなっちゃっ……て。あ、これ死ぬ奴だって……」
「ごめん、悪い事聞いた! そんな事無理して詳細まで喋んなくて良いから、マジでごめん!」
「いや、無理なんて……」
「涙目になってる奴が何言ってんだよ……ほんと無理すんな」
トラウマを抉られたように過呼吸気味になっていて、泣きそうになっている灯を制止させる。
……それだけの怪我を負っているのだから当然の事なのだろうが、本当に怖かったのだろう。
「……というか大丈夫か? やっぱ止めるか今日」
「いや、大丈夫っす。でも私が大活躍の武勇伝はスキップって事で」
苦笑いを浮かべてそう言った後、呼吸を整えるようにしばらく間を空けてから灯は言う。
「とにかく今この世界は何者かに侵略されかかってるんすよ。守護者がマジになって動かないといけない案件が私の世代でついに来たって感じなんす」
「……そういう事、マジであるんだな。こう言っちゃなんだけど、灯がガチで動かなきゃいけないような問題が本当に起きるなんて思いもしなかったわ俺」
「私もっす。おじいちゃんの代もパパの代も何も起きなかった。ただ起きるかもしれない何かに対して備えて次の世代に託すだけだった。私の代も何も無く終わるもんだとどこかで思ってたんすよね。変わらないサイクルを回し続けるだけだと思ってたっす」
そう語る灯は、これまで強い使命感で訓練を重ねてきた。
守護者の力は一子相伝の上に、子供が生まれた時点から徐々に力が衰えやがて使えなくなる。
だから守護者だった父親の代わりに力を振るえるようにならないといけなかった。
そうしなければ、今の世代で有事の際に守護者の家系である影村家の代表として動ける人間が居なくなってしまうから。
そして託す側になった時に、託せる知識と技能を身に着けておかなければならなかった。
その為に必死になって頑張ってきた幼馴染を、本当に凄いと思いながらこれまで見て来た。
後者もそうだが、とにかく凄いと思うのは前者だ。
だってそうだ。普通はきっとモチベーションが湧いて来ない。保てない。
なにせもう何十年も。下手したらもっと長い時間、この世界は内輪揉め以外では平和だった。
灯の父親の代もその上も、備える為に自分の時間を削ったにも関わらず、備えた力を使う機会が訪れる事は無かった。
灯も本人が言う通りそうなると思っていた筈だ。
それでも力を振るえる人間として、ゼロではない可能性に備える事を止めなかった。
少なくない時間を費やして、辛く苦しいトレーニングを積み重ねてきた。
それはきっと、中々できる事じゃない筈だ。
そう……簡単な事じゃない。
仮に才能が有ったとしても、この平和な時代に灯程の力を宿すという事は当たり前じゃない。
それを……生身の啓介でも辛うじて起きている事を認識できる程度の低レベルな戦いを全力で行っていた天池の姿を脳裏にチラつかせながら考え……最悪な予想を立てるに至る。
「多分お前だけじゃねえ……他の守護者の家系の人間も皆、そう思ってたんだろうな」
「……」
灯は言葉を詰まらせる。それだけで当たってほしくない読みの信憑性が上がってしまう。
「灯、他の連中はどうした」
「他の連中……というと? 誰の事っすか?」
「他の守護者の家系の連中だよ。基本的に有事の際以外は不干渉がルールなせいで、顔も名前も知らないって言ってた連中だ」
世界中に散らばる守護者の間には、そうしたルールが定められている。
各々来るかもしれない何かに備えて力の鍛錬や継承は絶やさないように努めるのは当然として、その当然を行うにあたっての相互監視のような物は行わない。
干渉を最低限にする事で、各々が各々の人生を送れるようにする為のルールだ。
そして今はそのルールが適用されない、干渉すべきタイミングな筈だ。
「守護者は守護者が力を振るわないといけないような厄災が近付いた事を直感で感じ取れる。それが集合の合図って話だったろ」
仮に天池が戦っていた相手が本当に人外の化物だったとして、あの程度の相手ならばギリギリ守護者が動かなければならない程の問題としてカウントしないのかもしれないという解釈が出来なくもない。
すぐ近くで問題が起き続けているのに灯はなんで介入しないのかという疑問はあっても、世界中から守護者が集結していなくてもある程度納得できる。
天池の孤軍奮闘で戦っているという言葉にもなんとか頷ける。
だが守護者である灯が世界の危機だと認識しているような敵が相手なら話は別だ。
「そいつらは今どこで何をしてる?」
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