静かな日常
「ジリリリリリリ」「ドガァっ」「シーン」
「やっちまった…」目を覚まし時計を見ると既に11時を過ぎていた。「今から出ても二限には間に合わねーな」いっその事諦めゆっくりと身体を起こす。きちんとアイロンのかけられたシャツを着て定期を手に駅へと自転車を走らせる。「次の電車は…やべ、40分後かよ」これが田舎の悪いところだ。あまりにも電車の本数が少なすぎる。「地元でも10分に1本はあったぞ。もしかして僕は都会人だったのか?」田舎に進学してそう思うことがよくある。恐らく錯覚なのだろうが。
待合室と呼べる場所もただ木造の椅子と自動販売機が1台ある程度だ。「なんで田舎なんかに来たんだろ。」元々苦手な虫は大量に出るし、遊びに出かける場所さえない。「スタバの新作か…スタバなんて近くにねーよ。」人と関わりたくないからと選んだ田舎だが4年を過ごすには退屈すぎた。誰も居ないホームに1両の黄色い電車が着く。ただでさえ少ない電車なのに昼間には貸切状態だ。ここから40分。お世辞にも頭がいいとは言えない大学までの通学時間、ノイズキャンセリングの機能が着いたイヤホンを耳に好きな音楽でテンションを無理やりあげる。
「市橋、遅かったな。寝坊か?」そう声をかけるのは同じ写真サークルの牧野だ。「市橋くんおはよう!」元気のいい大野結衣もいる。
「あー。うん。昨日ドラマ観すぎた」
「ったっくー何してんだよ。さっきも後輩ちゃんがお前に会いに来てたんだぞ?しかもまぁまぁ可愛い感じの」
「あっそう。」俺は別に女子に興味はない。
訳では無い。
「市橋くんって女の子から人気なのに一切女の子と仲良くしてるところ見た事ないね。」
「そう?大野さんとは仲良しだと思ってたけど。」Loveの方での意味だと分かってはいたが話を濁す。「今度女の子誘って都会に出よーぜ。」牧野はどうやら女の子と遊べたらそれで満足らしい。「俺はいいよ。」そう言いながら朝準備出来なかった昼ごはんを買いに食堂へ1人向かう。
別に女の子に興味が無い訳では無い。俺だって年頃の男子だ。でも…遊ぶなら「伊藤さんと…」俺の初恋相手だ。中学の時に1年から同じクラスになり好きになった。高校でも同じ学校だったがクラスが違い話す機会はなかった。「俺は何年同じこと言ってるんだろ」
既に片思いから8年近く経つ。「地元に帰れば会えないかな。」
そんな淡い期待をしながらも食堂のパンを手に取る。「180円ね。」食堂のおばちゃんの優しい声に我に戻る。昔から考え事をすると時と場所を忘れる癖があるらしい。「ありがとうございます。」そう言いながら俺は食堂を出る。
「そういえば、再来週は三連休だっけか。」僕は一瞬考える。「地元に帰ろう。」こんな田舎、話し相手がおじちゃん、おばちゃんくらいで頭がおかしくなりそうだ。「会えたらいいな。」
そんな淡い期待をしながら俺は教室に帰る。
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