第10話 紅い羽③
それから何回1対1をしたのだろう。
おれと七海は体育館の天井をみながら仰向けになっていた。
「疲れた〜!」
七海が楽しそうな声で言う。
「そうだな。」
おれも久々のバスケでかなり疲労が溜まっていた。
おれはさっと立ち上がり、体育館の側にある自販機で缶のカルピスソーダを買い、七海に一本パスする。
ぱしっと受けとった七海は不満そうな顔をしながら、「運動の後に炭酸とかありえねー。」
と愚痴を吐きながらもぷしっと缶を開け、勢いよく飲んでいた。
「いい飲みっぷりだな。」
おれもそれの続いて純白なカルピスソーダを喉に流し込む。
体育館が閉まる時間になり、おれたちはコンビニで肉まんを買ったあと帰り道の公園のベンチに腰をかけた。
「今日は…ありがと…。おかげでバスケへの情熱が以前より深まったよ。ほんとうにありがとう。」
七海はそう呟き、肉まんを一口食べた。
「うんま〜!」
本当に美味しそうに肉まんを食べる彼女を横目におれもかぶりつく。
「あちっ」
思っていたよりも肉まんが熱くてはふはふしていると、七海がさっきコンビニで買った自分の水を渡してきた。そういう行為は男子を勘違いさせちゃうからやめろと心のなかで言い、おれは七海の好意を素直に受け止めて水を飲んだ。
「さんきゅ。」
おれが軽く礼をすると、七海がにこっと笑いペットボトルに口をつけようとする。
すると、途中ではっと何かに気づいた様子で顔を赤くしながらそっぽを向いてしまった。
無意識にやってたのか…とおれは感心した。
少し気まずい雰囲気になってしまったが、その空気を壊すかのように七海は口を開いた。
「そういえば青井めっちゃバスケ上手いじゃん!何年やってたの?てか、部活入らないの?」
何年やってたかという質問は正直に答えてしまうと今の年齢以上の年数を答えることになってしまうから適当にそれとない数字を言っとく。
「部活は入らない。バスケ部が球技大会で活躍するのは当たり前と思われるが、帰宅部が球技大会で活躍すればそれなりにモテるんじゃないかと思ってな。異論は認めない。」
「それだけの理由で…。ちょっと引いたわ。」
そういってクスッと笑う七海。
おれは成瀬や黒川とはそれなりに話しているつもりだが、七海とは今日初めて喋ったといっても過言ではない。ただ、話してて心地よさを感じる。おれはきっとこれからの3年間七海とはこんな関係で突き進んでいくのだろうか。未来のことなんか誰にもわからないな。
家につくと、携帯電話が鳴った。
画面には成瀬の名前が表示されている。
おれはYシャツのボタンを右手で外しながらもう片方の左手で携帯を手に取り電話に出た。
「もしもし青井くん!紅羽ちゃんどうだった?」
おれは妙なことに気づくが今は触れずに返答する。
「バッチリだ。明日からまた球技大会に向けて全力で励むと思う。」
「そっかそっか!本当に良かった〜。」
おれは考える。おれは確かに七海の件はまかせろとは言ったが、今日接触するとは言っていない。七海がおれとバスケをしたことを成瀬に言ったのなら成瀬は七海がもう大丈夫だとわかるはずだ。七海がバスケをしていたという事実があるだけで必然的に七海は大丈夫なのだ。
「青井くんもしかして紅羽ちゃんに惚れちゃったんじゃないの〜?」
相変わらずテンションが高い。
「ああ。普通に惚れたぞ。」
おれも意地悪でそう返した。
「えっ、本当に惚れちゃったの?」
「紛れもない恋だったな。七海のバスケには心底惚れたぞ。魅了された。」
「紛らわしいこと言わないで〜!」
その後少し雑談をしてからおれたちは電話を切った。
おれは過去を振り返る。成瀬は前に言った。
おれのことを気になっていると。それに今日の電話をしてきた意味。そして惚れた惚れてないの話。おれは鈍感系主人公ではないから薄々気づいている。
しかし何が成瀬の気持ちを揺らしたのか。おれにはさっぱりわからなかった。もしかしたら成瀬は全て計算しているのかもしれないな。
一般的な男子高校生なら絶対に勘違いしちゃってるぞ。いや、おれは勘違いしてないし。本当にしてないから。
人生3周目だけど高校生活で無双するのは大人気ない 高校生B @07777
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