第5話 陣地とポイントとおれ②

 緑川が去ってから10分で、河村と近藤が帰ってきた。2人ともほとんど息切れしていない様子。流石としか言いようがない。

どうだった?と柳澤が聞くと、少し申し訳なさそうに河村が口を開いた。

「チェックポイントにはすでに3組のやつらが44人いたんだ。しかも、おれらが着く頃にはもうあとちょっとでポイントが入るっていう状況だったんだ。多分今頃44ポイント入ってウキウキしてるだろうな。」

時間的に3組は開始直後にチェックポイントに行ったことになる。先手必勝ということか。


 こうなると、流石にクラスに焦りが生じてしまう。1組対2組の構図が誕生した今、おれたち4組は3組の相手をしなきゃいけない。しかし、その相手が早くに44ポイントをゲットした訳だ。

話し合いの結果、タイミングを見計らって44人全員でバトルをしに行くことになった。だが、悪い予感しかしない。焦って出した結論じゃどうにもならない。残り時間は、1時間半、ちょうど半分だな。

柳澤の指示で、とりあえず第二回の敵情視察に河村と近藤を向かわせた。


 それから20分くらいして2人が帰って来た。2回目だから少し疲れているようだ。近藤は少しグラついたのか一瞬おれの前で倒れる。おれが駆け寄ると近藤のそばに昨日宝探しで当てた「メモ帳」の姿が現れた。しかも1枚破られている。近藤はばつが悪そうな顔をし急いでそれを隠すように手で抑えてポケットにしまう。おれはそっとその場を離れる。

柳澤が河村に結果を聞く。

河村によると、3組の生徒が4人いて2人がつくとちょうどポイントが入ってしまったらしい。

3組は合計48ポイントになったわけだ。

あと、と河村が続けようとしたがなんでもないと思いとどまって口を閉じた。

おれはそれを不審に思い、誰も見てない隙を狙って河村と2人で話をすることにした。

「さっきまだ何か言おうとしてただろ?なんでも報告しろ。」

おれがそう言うと、そうだよなと小さく呟き河村が言った。

「大したことじゃないっつーか、近藤に申し訳ないんだけど話すぞ。

俺たちがチェックポイントについたとき3組の生徒4人が俺たちに絡んできたんだ。『お前たち一回もチェックポイントに来てないけどビビってんの?』みたいな感じでな。俺は安い挑発だと思って聞き流してたんだけど近藤はカッとなったみたいで1番前にいたやつの胸ポケットあたりを狙って張り手をしてぶっ飛ばしたんだ。もちろん相手は怒り、一斉に4人で近藤を囲み殴りかかった。俺も参戦しようと思ったら近藤が来るな!といって相手の殴りを受けたんだ。大体1人1発近藤を殴ってから相手は引いていった。って感じだな。近藤にはダセーからみんなには言うなって言われてたから言い出せなかったんだ。」

なるほどな。

「確かに報告するまでもないかもな。とりあえず話してくれてありがとう。」

そう礼を言い、みんなの元に戻る。

みんなはもうすっかりバトルしに行く気満々で、C地点への最短ルートを考えている。


 さてと。おれは思考を巡らせる。おじさんが世界を変えるか。

おれは成瀬を呼び出し、ある頼み事をする。


 

 俺は3組の生徒、烏山狗山。さっきは、チェックポイントで少し挑発しただけなのにいきなり突き飛ばされたてビックリしたぜ。あの時はカッとなっちまって反撃をしたが、胸ポケットにはある紙切れが入っていた。その紙切れにはこう書いてあった。

『俺は近藤翔。お前達のスパイだ。4組はこれから全員で3組にバトルしにいく。だからすれ違うように1人だけ4組の陣地でバトルしにこい。3組の陣地ではバトルする直前で俺が抜けて43人にする。そうすれば100ポイントゲットだ。』

つまり、3組の陣地でのバトルは同じ人数、つまり3組の勝ちで終わり4組の方では1人対0人で3組が勝てるということだ。

正直信用はしかねる。だが、俺たちに反撃されるリスクを背負ってまでも胸ポケットに紙切れを届けたことは評価したい。48ポイントを獲得した俺たち3組はもうこれ以上動かないだろう。しかし本当に48ポイントで足りるのか?相手が「裏切り者」と別クラスに紛れているスパイを当てたら一気に100ポイントだ。対してこっちは誰が裏切り者なのかわかっていない。しかも、もしこのメモがデバフだったとしたらあと1時間、4組はチェックポイントで荒稼ぎできてしまう。…



 俺は3組の陣地から少し離れた場所で待つことにした。もし4組が全員で来るならかなり目立つだろうし、急いで俺が陣地に戻ればいい。

しかし、いくらたっても来る気配がない。今頃もしかしたらチェックポイントで荒稼ぎしてるんじゃないのか?やはりいった方がいいのか?額にじんわりと汗が生じる。と、とりあえずチェックポイントに行くか。


 チェックポイントについたがそこには誰もいなかった。もちろんすれ違ってない…はず…

いや、実はすれ違っているんじゃないのか。だとしたら今頃バトルで負けてマイナス50ポイントだ。不味い。冷静な判断ができなくなっている。ゲームの残り時間はあと20分。流石に4組はそろそろ動かなきゃダメなはず。

俺が、俺が世界を変えるんだ。


 俺は不穏な空気を感じつつも4組の陣地に入った。冷静に考えてみれば、4組はこの状況で絶対に動かなきゃ行けない状況に立たされている。そもそも裏切り者が誰か分かっていないのかもしれない。どのみちチェックポイントかバトルに行くはずだ。だから俺は今からバトルを仕掛ける。

とても静かだ。やはりすれ違ったのだろうか。この静けさがおれの不安を掻き立てる。大丈夫だ。落ち着け。今ここにいるには俺1人だ。

俺はマーキングポイントに腕時計をかざし、「バトル」の準備を始める。

勝つんだ!俺は勢いよくバトルスタートボタンを押しに行く。世界を変えるのは俺だ!

ピコンという効果音と共にバトルが始まる。陣地にいる人数差を競うバトル。

俺の“理想”は0-1と表示されること。

俺はディスプレイをみる。

44-1。

思考が停止する。瞬間、ゾロゾロと4組の生徒達が出てくる。

「いやーまじでくるとはなー」

「やったねみんな!」

「すげーよ成瀬さん!」

歓声が聞こえる。

が、今の俺には雑音にしか聞こえない。


無惨にもゲーム終了の合図が鳴る。


 こうして“おれ”たちはゲームを終え、配布されたタブレットに裏切り者の名前とスパイの名前をそれぞれ入力した。

裏切り者は“近藤翔”。

おれは最初、緑川が接触して来たときに前に出ようとした数名のうちの誰か、もしくは緑川と握手を交わした柳澤を疑っていたのだが、引っかかったのは緑川の言葉。

『”ぼく“はあなた達を敵とはみなしていない。』

一見当たり障りのにような発言に思えるが次の発言。

『”1組“は2組と直接対決ーーー』

”ぼく“と”1組“で言い分けたことに違和感を覚えたおれは、敵とみなしていない、つまり味方であるという意味を含んでいると考察した。

うってつけは、近藤の3組の生徒との接触。それに1枚破れたメモ帳。恐らく”筆談“を使ったのだろう。

近藤が倒れてポケットからメモ帳がでてきたときに確信したが、おそらくそのアクシデントが無くても近藤が裏切り者で間違いなかっただろう。おれは成瀬に「バトルをせず、この場所に待機して、いずれ来る3組を迎え撃つ」とみんなを説得してほしいと頼んだ。おれより影響力があるやつがいった方がみんなも納得できるだろう。

成瀬が中心人物だったおかげでみんなもなんやかんや納得してくれたが近藤は違った。

反論を唱え続けていたのだ。

しかし、なぜ成瀬はおれの言葉を信用してみんなを説得したのだろうか。

おれは成瀬にそっと近づき理由を聞く。すると成瀬がいつものように弾けるような笑顔を向け言った。

「青井くんは…なんでもな〜い!」

そして別クラスに紛れているおれたちの味方は緑川、と入力する。


 「結果発表を行う。1位は1組の172ポイント。2位は4組の150ポイント。3位は3組の98ポイント。4位は2組の50ポイント。ちなみに、このポイントはこれからの3年間で競っていく”得点“にそのまま換算される。以上で結果発表を終わる。」

1人の生徒が嘆く。

「こ、今回のゲームは得点とは関係ないんじゃ?!」

すると、ちっちっちっと桜が人差し指を左右に動かす。

「ペナルティはないと言ったが、得点に関係ないとは一言も言ってないぞ!」

「そ、そんなぁ…」

こうしてゲームが終わりおれたちは宿に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る