第4話 陣地とポイントとおれ①

-翌日。

“ゲーム”の日がやってきた。おれは起床時間の1時間前に起きてしまった。やはり慣れない環境で快眠はできなそうだな。

他の生徒を起こさないようにしてそっと洗面台にいき、顔を洗い歯を磨き身だしなみを整える。

それから外の自販機でカルピスを買い、ぐびっと飲む。乾いた喉にキンキンのカルピスはたまらない。


 その後おれたちはミーティングルームに集まり朝礼が始まった。

「これから“ゲーム”の説明を始めるよ〜。よく聞いておいてね!」

桜の言葉でクラスが引き締まる。

「今回のゲームは、簡単に言えば陣地を守りながら得点するの!」

 

 おれたちは長い間ルール説明を聞いていた。

ルールを簡単にまとめてみる。ゲームの制限時間は180分。

まずはエリアについて。エリアには「陣地」と「チェックポイント」の2種類がある。

「陣地」はこれからゲームが行われる山をABCDの4つに分けたもので、Aが1組の陣地、Bが2組の陣地、Cが3組の陣地、Dが4組の陣地だ。

「チェックポイント」はAとB、CとDの間にあるポイントである。ちなみに陣地とチェックポイントには中心に「マーキングポイント」というものがある。


 次に得点の稼ぎ方だ。得点を稼ぐ方法は主に3つ。

1つは「チェックポイント」に行くこと。

チェックポイントでは、そこに行った人数分だけのポイントが手に入る。例えば、AとBの間のチェックポイントに20人でいき、20人全員が装着している腕時計をチェックポイント中心にある「マーキングポイント」にかざし”15分“その場にいると、20ポイント貰えるという仕組みだ。しかし1度腕時計をかざした生徒は1時間チェックポイントでのポイントは得られなくなってしまう。


2つ目は、他クラスの陣地の「マーキングポイント」で「バトル」をすること。

この「バトル」では人数を競うことになる。

例えば、おれたち4組の30人が2組の陣地のマーキングポイントに行き、そのとき2組の生徒が30人より少なかった時4組の勝ちとなりこちらに50ポイント入り、2組は50ポイントマイナスされてしまう。逆に2組の生徒が30人より多かった場合は2組に50ポイントが入り、4組は50ポイントを失う。

人数が同じだったときは、バトルを仕掛けた側が負けとなる。チャレンジャーは負けることが許されないってことか。

このバトルは1度しか仕掛けることができないため、慎重に行う必要がある。

 

 最後に「スパイ」についてだ。スパイは簡単に言ってしまえば「裏切り者」だ。スパイ本人には昨日の”どこか“のタイミングで自分が何組のスパイであるか教えられたそうで、ゲームが終わると必然的にその組に移動する。うちのクラスからも1人入れ替わるということだ。

難易度は高いが、ゲーム終了時に、他のクラスに紛れ込んでいる自分たちのスパイを言い当てられたら50ポイントを獲得できる。

さらに自分たちの組に紛れ込んでいる別クラスのスパイを言い当てることができたら50ポイント獲得できる。

きっとスパイになった生徒はなんとかして、自分の本当の組に接触するだろう。

 これでゲームの説明は終わりだ。


 ミーティングルームを後にして山奥までバスにいき、おれたちはそれぞれの陣地に着いた。

すると、装着した腕時計からゲーム開始の合図がでた。

 まず俺たちは柳澤の指示で、円になり話し合いを始めた。

最初に口を開いたのは柳澤だ。

「とりあえずスパイが自由に動けないように昨日の宝探しのペアで行動しよう。相方が怪しい行動をしたと思ったらすぐに報告するように。といっても僕がスパイの可能性もあるんだけどね。」

柳澤の言葉で、クラスのみんなは自分のペアの元に移動する。

落ち着いたところで成瀬がそうだなぁーと続ける。

「バトルについては今は後回しにして、とりあえずチェックポイントに何人配置するかを考えよう!」

成瀬の意見に、そうしよ!という声がクラスのあちこちから聞こえる。

しかし、柳澤は「いや」とクラスの声を遮断する。

「確かにそれも大事なんだけど、無闇にチェックポイントに行くとかえって危ない。チェックポイントに行った人は15分も動けなくなってしまう。1人でもチェックポイントに行ったことが他の組にバレれば、相手は44人全員でバトルにしに来るだろうからね。」

だから、と柳澤が続ける。

「まずは敵情視察からかな。クラスで1番足の速い人に頼みたいんだけど、この前の身体測定の結果で1番早かったのは”河村快斗“くんだよね?お願いできるかな?」

待ってましたといわんばかりに河村が、

「任せとけ!」

と息巻いている。

「ありがとう、河村くん。河村くんのペアは、“花園千秋“さんだけどいけそう?」

柳澤の言葉に花園が反応する。

「私運動はちょっと苦手だからパスしたいかも…」

「そっか。じゃあ2番目にクラスで足が速かった近藤くんに行ってもらってもいい?」

近藤が返事をする。

「俺は構わないぜ。」

決まりだな!と河村がいい、2人で軽いウォーミングアップを始めた。

山道を走るのはかなり危ないからな。


 それから2人がこの場を去って、10分くらいが経っただろうか。

おれたちはスマホを没収されているため連絡する手段がないからただ待つことしかできない。

ぺきっと枝が折れる音が聞こえ、ふと音の方向をみる。

河村たちが帰ってきたのかと思ったが、どうやら違うようだ。

そこには他の組の生徒が5人立っていた。クラスの警戒が少し強まる。

5人のうち、真ん中にいた生徒が前に出る。

「こんにちは。1組の“緑川晴久”です。別に警戒をする必要はありませんよ。5人しかいないのでバトルしたところで負けてしまいますから。」

緑川はニコっと笑っているが、どうにも胡散臭い。

緑川が続ける。

「とりあえず一言だけ言いたくて来ました。残念ながら”僕“はあなた達4組を敵とはみなしていません。”1組“は今回2組との直接対決をする予定なので邪魔しないでいただければと思いまして。」

緑川が見下したような声で言い放った。

やけに含みを持たせてるな。とおれはそっと思う。

クラスの何人かが前に出ようとするのを柳澤が手で抑えて口を開く。

「言いたいことはわかったよ。僕たちからしてもCとDの間のチェックポイントに行くには1組と2組の存在がどうしても邪魔になっていたからね。だからこちらからは絶対に干渉しないよ。その代わり、2組のことを頼むよ。」

そう言い、柳澤が手を差し出す。

それを緑川は握り、交渉成立といった感じだ。

それからすぐに緑川たちは去っていった。

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