第十部 主婦、後輩に溺愛される
第20話 主婦、後輩との約束を守る
「今日は、めちゃくちゃ楽しかったですね」
「うん、すっごく」
上野動物園を満喫した後は、上野駅近くで遅めのランチを食べた。
そして、その後は国立科学博物館。久しぶりに行くと楽しくて、かなりはしゃいでしまった。
夕飯は望月くんが予約してくれていたイタリアンだ。
「もうちょっといたいくらいですもん、俺」
望月くんは笑った後、スマホで時間を確認した。
終電まで、もう少し。
「お酒でも、飲む?」
このあたりには居酒屋やバーも多い。終電を逃しても、朝まで飲めるところなんていくらでもある。
でも、望月くんは首を横に振った。
「今日は、お酒はいいです」
「ご飯の時も、ソフトドリンクだったもんね」
「話したいことがあるので」
望月くんは真剣な表情で深呼吸した。
「凛香さん、話聞いてくれるって言いましたよね?」
「……うん」
忘れるほど馬鹿じゃないし、とぼけるほど初心でもない。
「俺、凛香さんのことが好きです」
望月くんの声は少し震えていて、緊張しているのが伝わってくる。
「だから、俺と付き合ってください」
望月くんに告白されたら、どう答えよう?
春翔と別れてから、ずっと考えていたことだ。
「望月くん」
「……はい」
「私、最近いろいろあって、正直、まだ混乱している部分もあると思う」
離婚して、慰謝料を請求して、家を出て。
全てに片はついたけれど、眠れない夜がなくなったわけじゃない。
「でも、望月くんといるのは楽しいし、今日のこともずっと楽しみにしてた」
傷ついた時に優しくされたから嬉しかったのか、望月くんだから嬉しかったのか。
まだ、明確な答えは出せずにいる。
でも今、もっと望月くんと一緒にいたいという気持ちにだけは自信を持てる。
「こんな私でよかったら、望月くん、付き合ってください」
「凛香さん……!」
いきなり、勢いよく抱きしめられた。正直、結構痛い。
でも、その力強さが心地いい。
「よかった……!」
「こっちこそ、ありがとう」
「いえいえ! あっ、急がないと、時間やばいですよね?」
行きましょう、と望月くんは私の手を引っ張って、改札に向かって歩き出した。
別に、もう終電を逃したっていいのだけれど。
「今日は本当に楽しかったです。あ、撮った写真とか、後で送りますね!」
「うん、お願い」
「あと、いっぱい連絡します。もう俺、凛香さんの彼氏なんで!」
望月くんの締まりのない笑顔が可愛くて、私までにやけてしまう。
違う電車に乗るのに、望月くんはホームまで送ってくれた。
私が電車に乗っても、見えなくなるまで手を振ってくれる。
「楽しかったな……」
望月くんが見えなくなってすぐ、望月くんからメッセージが届いた。
『今日の写真です!』
大量の写真が送られてくる。
二人で撮った写真、動物の写真、美味しかったご飯の写真。
眺めているだけで、心がふわふわする。
「あ」
その中の一つ、パンダの前で一緒に撮った写真から、目が離せなくなった。
パンダを写真に入れるのに必死で、撮っている時は気づかなかったけれど……。
「望月くん、私しか見てないじゃん」
カメラも、パンダも見ていない。
私を見る望月くんの眼差しが甘くて、胸がぎゅっと締め付けられる。
胸の奥が温かくて、笑いたいのに、ちょっとだけ泣きそうで。
たぶんこれが、幸せだ。
画像を保存し、私も望月くんへメッセージを送った。
『写真もありがとう。今度は私がデート考えるね。とびきり美味しい焼肉、ご馳走するから!』
どこの店がいいだろう?
私はにやけながら、インターネットで焼肉屋を検索し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます