第三部 主婦、復讐作戦を考える

第6話 主婦、後輩と作戦会議をする

「じゃあ、詳しい話、聞かせてください」

「うん」


 私たちは、駅の近くにある24時間営業のファミレスに入った。

 朝まで時間を潰せるのが、ここと隣のファーストフード店しかなかったのだ。


「これ、見て」


 隠し撮りした、旦那の不倫写真を見せる。仲睦まじく腕を組み、ホテルへ入っていく時の写真だ。


「この女の子、知らない?」

「知ってますよ」


 望月くんはあっさり頷いた。そして、スマホを取り出して一枚の写真を見せてくれる。

 飲み会の写真だろう。女は端の方に座っていて、その真横に春翔がいた。


「新入社員の子です。深山茉莉奈。凛香さんの夫さん……春翔さんが、深山さんの教育係なんですよ」

「……そんな」


 若い子だとは思ったけれど、まさか新卒の、新入社員の子に手を出していたなんて。

 それに私は、新人の教育係になった話だって聞いていない。


「仲が良いとは思ってましたけど、まさか……」


 望月くんは気まずそうな顔で呟いて、ジンジャーエールを飲んだ。

 私も、喉なんてかわいていないけれどレモンティーを飲む。


 職場の新人と浮気。

 漫画の広告でよく見るような展開だ。それが、実際に起こってしまうなんて。


「凛香さんは、どうしたいんですか?」

「どうって?」

「二人を別れさせたいとか……離婚したい、とか」


 どうしたい? なんて、答えは決まっている。


「離婚は確定。あとは、どうやって二人に復讐してやるかだけ」


 そう言うと、望月くんは笑顔で頷いた。笑うような話じゃない気もするけれど、神妙な顔で聞かれるよりマシかもしれない。


「不倫の証拠はもうあるし、別れられるとは思う。でもそれだけじゃ気が済まないの」

「凛香さんらしいですね」

「どういうこと?」

「素敵だってことです」


 望月くんは甘い笑みを浮かべた。褒められている気はしないけれど、この顔を見たらまあいいかと思えてくる。


「俺は、復讐お手伝いをすればいいってことですよね?」

「そう。そのためにも、この子……深山さんの情報と、二人の関係性がもっと詳しく知りたいの」


 遊び感覚なのか、それとも真剣なのか。

 何をすれば、一番あの二人を後悔させられるのか。

 離婚して、私は新しい人生を始める。だからこそ、すっきりして終わらせたい。


「そういうことなら、任せてください。二人の関係性はあれですけど、深山さんのことはそれなりに分かりますよ」

「そうなの?」

「はい、あの子、面食いなんで、よく話しかけられるんです」


 それ、自分がイケメンだって言ってるんだよね?

 こんなことをさらっと口にできるのは望月くんくらいだろう。


「確か、アイドルとか好きみたいです。この前も福岡にライブ見に行ったとかで、お土産配ってました」

「……福岡? いつ?」

「えーっと、夏だったので七月下旬くらいですかね」


 七月下旬、福岡。

 春翔の出張と同じだ。


「……そういえば同じ時期、春翔さん有給使ってました」

「一緒に福岡に行ってた、ってわけね」


 しかも、深山さんはアイドルのコンサートへ行ったのだ。春翔はアイドルなんて好きじゃない。

 つまり、アイドルのコンサートのおまけでもいいから旅行デートがしたいほど、深山さんのことが好きだということだろうか。


「そうだ、このグループですよ。韓国と日本で活動してるとかで。で、推しはこの人らしいです」


 望月くんが見せてくれたのは、黒髪の美青年だった。

 中性的な顔立ちで、左目の下に涙ボクロがある。切れ長の瞳が色っぽくて、艶のある子だ。

 イケメンというより、美人という表現が似合うかもしれない。


「……春翔とは似てないね」


 春翔もイケメンだが、春翔は中性的なタイプではない。


「ですね。っていうか……」


 望月くんは黙り込み、急に私の顔をじっと見つめた。

 そして、一分以上経った後、再び口を開く。


「凛香さんに似てません?」

「え?」

「顔の雰囲気とか」

「言われてみれば……」


 私が頷くと、望月くんはにやりと笑った。


「俺、いいこと思いついちゃいました」

「なに?」

「春翔さんから、凛香さんが深山さんを奪っちゃえば良いんですよ」

「え?」

「で、その後、深山さんもこっぴどく振ってあげればいいんです」


 春翔から深山さんを奪って、その後、深山さんを振る……。

 頭の中で想像するだけで、かなりスカッとした。

 それなら、二人に対していい復讐になるはずだ。


「いいね、それ」


 決めた。

 私は、深山さんを惚れさせてみせる。彼女の完璧な王子様になって、春翔から深山さんを奪うのだ。

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