第二部 主婦、不倫相手を突き止める。そして……

第4話 主婦、不倫相手を調べる

「手がかりはこれだけ、か」


 スマホで撮った動画を見ながら呟く。

 旦那と不倫相手が仲良くホテルへ入っていく動画を、私はもう数えきれないほど見た。


「誰なんだろう」


 復讐してやると決めたからには、ターゲットの情報を得る必要がある。

 しかし女に関しては、顔しか分からない。名前すら、正確なものは分からないのだ。

 春翔はまりちゃん、なんて呼んでいたけれど。


「うーん」


 春翔のスマホを見れたらてっとり早いけれど、パスワードを変えられているし、それは難しい。


「今度、女の後をつけてみようかな」


 そうすれば、少しは彼女のことが分かるかもしれない。

 もしだめだったら、興信所に依頼しよう。お金はかかるかもしれないけど、一番確実だ。




「今日も会うんだ」


 仕事終わりに、春翔はまたあの女と待ち合わせしていた。

 期待通りの展開ではあるけれど、同時に腹も立つ。


 二人が向かった先は、和食料理屋。

 どうやら会社から少し歩いたところで食事をし、その後ホテルへ行くのが定番の流れらしい。


「……今日も長丁場になるな」


 今日はホテルから出てきた女をつけないといけない。だから、二人がホテルから出てくるのを待たなければならないのだ。


「はあ……」




 ホテルから二人が出てきたのは、二十三時半頃だった。

 どうやら、終電を守ろうという意思はあるらしい。

 私は今日、友達の家に泊まると伝えてある。だから、帰らなくても怪しまれないはずだ。


 二人は新宿駅へ入り、そのまま山手線のホームへ向かった。

 うちに帰るなら総武線だ。


「じゃあ、気をつけて帰ってね」

「うん、ありがとう、春翔さん」


 わざわざ、ホームまで送ってあげたってこと?

 しかも、あんなに優しそうな顔して……。


 電車がきて、女が名残惜しそうにしながら電車へ乗り込む。

 春翔はまだ動かず、じっと女を見つめていた。


「……なんなの」


 軽く舌打ちし、私も電車に乗り込む。

 少しして、電車が走り出した。




 女がおりたのは、駒込駅だった。そのまま改札へ向かって歩き出す。

 ざわ、と胸が騒いだ。嫌な予感がする。

 ここは、私にとっても慣れた場所だ。結婚前まではここに住んでいたから。

 私だけじゃない。春翔だってそうだ。

 だってここには、独身向けの社員寮があるんだから。


 駅を出て、女は迷いなく進む。私が歩き慣れた道を。

 十分ちょっと歩くと、女は立ち止まった。私が住んでいた寮の前で。


 そしてそのまま、オートロックを解除して女が寮へ入っていく。


「会社の子だったんだ……」


 でも、私は見たことがない。春翔と同じ、新しいオフィスに勤務しているのだろうか?

 店の前で待ち合わせをしていたのは、他の人に怪しまれないようにするため?


「帰ろ……」


 とりあえず、あの子が会社の子だということまでは分かった。

 これからまた、彼女を探る方法を突き止めなくては。


 振り向いて歩き出した、その瞬間。

 背後にいた人にぶつかってしまった。


「わ、すいません! 大丈夫ですか?」


 思わず耳を塞ぎそうになるほど大きい声。だけど、元気が出る明るい声だ。


「いえ、こちらこそ……!?」


 目が合った瞬間、私はかたまってしまった。

 私が見上げるほどの長身に、ふわふわとした茶色の髪。色素の薄い瞳に、形のいい鼻。


 望月もちづきくん……!?


 胸元をおさえ、心臓を落ち着かせようとする。

 動揺しちゃだめだ。怪しまれる。

 いくら知り合いだとはいえ、今の私は変装している。

 それに望月くんと最後に会ったのは四年も前だ。私だなんて、気づくはずがない。


 軽く頭を下げ、私はそのまま歩き出した。


「待ってください!」


 いきなり腕を掴まれる。あまりの強さに顔をしかめると、ごめんなさい! と望月くんはすぐに謝ってくれた。

 でも、私の腕は離さない。


凛香りんかさん、ですよね?」

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