第一部 主婦、旦那の浮気を知る

第2話 主婦、旦那の浮気を疑う

「私だって、疲れてるんだけど」


 台所にたまった大量の皿を眺めて溜息を吐く。

 料理をしなかった方が皿洗いをするというのが我が家のルールだ。

 でも、今日夕飯を作ったのは私。

 それだけじゃなく、ここ最近、旦那は食事当番を全くしていない。


 今年度から部署が変わり、忙しくなったのは知っている。

 だけど、私だって同じ会社で働いているのだ。


「せめて感謝くらいするべきじゃないの?」


 文句を言いながら皿を洗う。

 ありがとうとか、美味しいの一言でもあればまだよかった。


「昔はこんなんじゃなかったのにな」


 結婚当初はちゃんと料理当番を守ってくれたし、事情があって守れない時は他の日に当番をかわってくれた。

 失敗した料理でも、美味しいと笑いながら食べてくれた。


 泣きそうになる。最近は、幸せだった頃を思い出してばかり。

 新しい思い出なんて、全然できない。


「結婚三年目にもなれば、みんなこうなのかな?」


 新婚当初の熱がずっと続くとは思っていない。

 だけど彼となら、幸せな家庭を築けると思ったのに。


 ピコッ、ピコッ。


 立て続けにメッセージアプリの通知音がリビングに響いた。

 私のものじゃない。


「珍しいな」


 旦那はいつも、スマホをミュートにしている。

 アプリやSNSの通知が嫌いだからだ。


 なにか心境の変化でもあったのだろうか。

 それとも、連絡を待っている相手がいる……とか?


「そういえば最近、スマホ見せてくれないし」


 お互いのスマホをのぞくようなこと元々はしないけれど、最近は画面すら見せてくれなくなった。

 二人でいる時も、絶対地図アプリを開くのは私のスマホだし。


「……ちょっとだけ」


 水で濡れた手を拭き、忍び足でソファーへ向かう。

 旦那のスマホを拾い、大きく深呼吸した。


 パスワードは【0719】のはず。


「……あれ?」


 ロックが解除されない。いつの間にかパスワードが変わっているのだ。


 どうして?

 私に見られて困るものでもあるの?


 鼓動が速くなる。落ち着け、落ち着けと何度も心の中で呟く。

 冷静さを失えば、旦那に怪しまれる。


 いったん、心を落ち着けなきゃ。

 状況を整理を整理するのよ。


 深呼吸し、怪しいと思った理由をあげていく。


①帰りが遅くなった

②冷たくなった

③スマホを見せてくれなくなった

④スマホのパスワードが変わった


「怪しいけど、決定的なものはないな」


 家探しすれば、何か出てくるだろうか?

 旦那は……春翔はるとは大雑把な性格だ。綺麗に証拠を消せるタイプじゃない。

 でも、仮に浮気をしていたとしても、家によんでいなければ、証拠はないかもしれない。


「……毎日、本当に残業なのかな」


 春翔が配属された営業部は社内でも忙しいと噂されている。

 しかし、営業部は私の所属する経理部とはオフィスが違うから、正確な時間は分からない。


「よし。後、つけてみよう」


 このままもやもやしていても、どうにもならない。

 白黒はっきりつけないと気が済まない性分なのだ。


「もし浮気だったら……」


 想像するだけで腹が立つ。私が家のことをやっている間に楽しく浮気しているなんて許せない。

 絶対、真実を突き止めなきゃ!

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