不倫されたので、旦那から不倫相手を奪ってやろうと思います。

八星 こはく

プロローグ

第1話 主婦、男装して不倫相手へ会いに行く

 毎週金曜日、あの女は決まってこのカフェにやってくる。

 注文は、抹茶ラテとチーズケーキ。

 座るのは、奥から二番目のテーブル席。


 全部、全部知っている。

 だって、私はちゃんと調べたんだから。


「よし」


 カフェの窓ガラスに映る自分を見て、私は頷いた。これならきっと大丈夫だ。

 ショートヘアのウィッグ、研究し尽くした男装メイク、奮発して買ったおしゃれなメンズ服。


 今の私は、どこからどう見ても男だ。しかも、ただの男じゃない。

 とびきりのイケメンだ。


 昔から格好いいとは言われてたけど、まさかここまで男装が似合うなんて!


 これなら絶対、あの女だって惚れさせられるはず。


 頷いて、私はカフェの扉を開ける。

 ベルの音が響いて、店主がいらっしゃいませ、と優しく笑った。


「抹茶ラテと、チーズケーキお願いします」

「かしこまりました」

 

 支払いを済ませ、席で待つ。

 もちろん、座るのはあの女の……深山茉莉奈みやままりなの隣だ。


 わざと目を合わせ、薄く微笑む。


「隣、失礼しますね」

「は、はい……っ!」


 緊張して上擦った声と、うっとりした眼差し。

 分かりやすい相手で助かった。


「それ、僕が頼んだメニューと全く同じです」

「え?」

「運命かもしれませんね」


 さっきより口角をあげ、華やかな笑顔を作る。

 すると、茉莉奈の顔が赤く染まった。


「よかったら、一緒に食べませんか?」

「ぜ、ぜひ!」


 よし。これで、掴みは成功……かな?


 もちろん、私と茉莉奈の出会いは運命なんかじゃない。

 そして、私と夫も運命じゃなかった。


 ずきん、と胸が痛む。


 もし不倫に気づかなければ? そう考えたことは一度や二度じゃない。

 でも、気づいてしまったものはどうにもならない。


 運命じゃないなら、別れるしかない。


 でも、一方的に裏切られてそれで終わりなんて、絶対に許せない。

 夫も、茉莉奈も、とことん傷つけて、こっちから捨ててやる。


 私がそう決意したのは、ちょうど今から二週間前のことだ。


 


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