第三勤務目 おっさん幽霊

「なぁ、バイトくんさぁこの話知ってる?」


「なんすか? バイトの女の子が全員店長のことが嫌いなのやっとわかったんですか?」


「それは知らなかったし知りたくもなかったわ。いや、みんな俺のこと嫌いなの!?」


「まぁ、それはいいじゃないですか、で? 何の話ですか?」


「…まぁ、いいや。その話は後でしっかり聞くことにするわ。うちのキッチンにおばけ出るって噂知ってる?」


「あーなんかそんな話聞いたことありますね。閉店前に変な音聞こえるとかでしょう?」


「そうそう、俺もこの前クソ篠田に教えてもらってさあの野郎俺の事を騙したくせに幽霊怖いとか言いやがってよ」


「めちゃくちゃ個人的な気持ちが入ってますけど、確かに変な音するときありますよね」


「で、この前俺一人でキッチンで閉店作業してたのよ。その時キッチンの奥から物音がしたのよ」


「マジすか」


「んで、気になって音のしたほうに行ってみたのよ」


「勇気ありますね。それでどうなったんですか?」


「あぁ、それは安心してくれ。普通に幽霊がいただけだから」


「は? 幽霊がいたんですか?」


「そうだよ。おっさんの幽霊が驚かしてきた」


「何でそんな普通に話してくんですか? 幽霊ですよ幽霊!」


「だって、幽霊がいるかもと思って見に行ったんだもん、そしたら幽霊がいたんだから驚くわけないでしょ」


「そんなもんですかね。僕だったら驚きますけど」


「それでいきなり角から飛び出してきて驚かしきたんだよ。だから「幽霊ですか? みんな怖がってるんで音出すのやめてくれませんか?」って言ったんだよ」


「幽霊にマトモな事言わないでくださいよ…」


「そしたらおっさんの幽霊が黙って何も言わないからコーヒー淹れてやったんだよ。ほら、おっさんって悲しい生き物だろ? 基本的に世界から淘汰されてる分際だから、たぶん人に話しかけられるのになれてなかったんだろうな」


「店長、おっさんに対しての偏見がヤバすぎますよ」


「で、閉店した店の中でおっさんの幽霊の話を聞いたわけよ」


「何でおっさんの幽霊と普通に話してるんですか…で、どうなったんですか?」


「なんかおっさんはいつの間にか幽霊になってたんだって、それで街の中を当てもなく飛んでたらここにたどり着いたんだってよ」


「どうしてファミレスにたどり着いたんですかね」


「ここに仲間がいる気がするみたいよ。誰かわからないけど」


「あー…理解しました。店長のことを仲間だと思ったんですね」


「で、よくよく話を聞いてみたら死んだ時の状況を思い出したみたいたんだよ」


「そうですか。幽霊になるぐらいだから大きな理由が後悔があるんでしょうね」


「キャバ嬢にフラれて死んだらしい」


「は?」


「かなりの金額つぎ込んだ娘らしくてさ、借金もしてたんだってそれでもうキャバクラに行く金もないからその娘に告白したら断られたんだって」


「当たり前でしょう!」


「でもその女の子は店に行ってた時は「おっさんが凄い好み」とか「結婚するならおっさんがいい」とか言ってたらしいよ」


「営業トークに決まってるでしょうよ!」


「それでフラれた瞬間に驚きすぎて死んだらしい」


「その女の子のほうが驚いたでしょうね…」


「そのおっさんがこの人です」


『どうも』


「おっさんそこにいたんかい!!!!!!」


 その後、おっさんの幽霊は店長と意気投合して一緒に夜の街へ消えていった。

 

 次の日、店長におっさんの幽霊がどうなったか聞いたらキャバクラで満足して成仏していったらしい。


「あいつとは生きてるときに出会いたかった」


 窓の外をみながら店長はもの悲しげにそう言っていた。

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