第1章1節:学殖より学食だ
07 前世の記憶持ち
ジョゾゾゾゾゾ、と肥えた土地に半透明の小水で斜め堀の洞穴を作る。
女の体って本当にちんこないんだなあ。
もうこの体になって何年と経ったが、こればかりは慣れない。
「うぃい……拭くもんないけど、まぁいっか」
急いで下ろしたことで捻れていた白色の下穿をあげ、学生服で隠す。
暖かな陽光に照らされるひまわり畑の中に、私の姿はあった。
ひまわりが向く方向に顔を向け、直射日光に顔を顰める。
「ぐぃ……まぶし……」ひまわりに日差しを任せ、屈みながら移動をしていく。
今までのことと一転して、急に生活感が溢れていることをまずは謝罪をしたい。
何を隠そう。私は──あー、っと、昔は僕って言ってたっけ。それも懐かしい。
私は勇者だ。としても偽物勇者な訳だが。
女勇者の前の勇者で。近衛騎士の隊長の首を刎ね飛ばし、その後村を滅ぼした奴。
それが今はご覧の通り、齢16歳の少女になっている。
長い髪の毛は母親譲りのキレイな白髪で、瞳は薄紅色。背丈は小さく、どこか病弱のような印象すら受ける。これが今の私だ。
「……」
何から話せばよいだろうか。
端的に言うと、私は今、前世の記憶を持ったまま今世を生きている。
『転生』──こんな言葉があるならば、それに該当をするだろうか?
あの日、確かに私は死んだ。女勇者の拙くも磨かれた剣によって。
そして、目を覚ました。牛舎の中で兄妹喧嘩をして強く頭をぶつけた時だった。
その時は何歳だったか。物心をつく頃だったから、2歳くらいだったか。
目を覚ましたときはそりゃあ驚いた。だって、頭が下にあって光景が逆さまに見えたんだから。
兄に投げ飛ばされた──兄と言っても双子だから生まれたのは同日だが──時だったから、いよいよ頭が股の下にある人類に生まれ変わったかと勘ぐった。が、ただ突き飛ばされただけ。その兄も私の足蹴りで横転していたのだが。
この世界は前の世界とは違うらしい。どことなく似通ったところはあるがな。
私が今いるのは、グリュンヴァルト王国といって大陸の西の方にある大国だ。
そこの学園に通っている訳なんだが、っと。まぁ、詳しい話はいいか。
(小便してる時はどうも暇すぎて色々考える。し終わった後もな)
昔の自分って壮絶な人生を歩んでいたんだなと思う。
前世の記憶ってのはすぐに薄れるもんだと思ったが、中々どうして薄まらん。
2歳から既に14年も経って、今世に馴染んで、なんなら一人称が「僕」から「私」になるくらいにまでは時間が経った今でも、こうして鮮明に思い返すことができるのだ。
「それにしても……まさか、女の子の体になるとはな」
レナータ・ローゼンクランツ。あー、今はレナータ・フォン・オーガスディアか。
それが私の名前だ。家名が変わっているのには色々とあったんだよ。
家名の変化で最近は色々と面倒なことが多くてなぁ。いや、本当に。
「あ、レナータ! どこに行ってたの!」
「よっ、ダミアン。ちょっとお花を摘みにな。あと、ひまわりに栄養を届けてきた」
「トイレはちゃんとトイレでしなよ」
「だってこの世界のトイレって一階にしかないし、端っこにしかないんだもん。急なもよおしに対応しきれんと思うんだ」
コイツは私の兄。ダミアン・フォン・オーガスディア。
瑠璃色の髪の毛と赤色の瞳。背丈は見上げるほど高く、学園の中でもデカい方。
イケメンかと言われたらまぁそうなんじゃないか。見慣れた顔だから分からん。
「女の子になったんだから、ちゃんとしないとだよ?」
「そっちは男になってどうよ。あるのには慣れたかっ!」
パシンッと股間部に手をあて、有ることを確認。
「うん。あるな」
飛び退いたダミアンにケラケラと男友達のような笑いを送る。
「なーに女の子みたいな反応してんだ。ちなみに、私はまだ慣れてない! 下穿きを履かんと違和感が凄い」
「……男用のショートパンツを履いてるもんな、あとインナーコルセットも」
「母さんにワガママを言ってな。あとほれ、ガーターベルトをこの前頂いたのだ」
ダミアンに学生服をぴらと捲らせて確認。おしゃれさんだろ。へっへーん。
「ガーターベルトは母様のサイズが私よりデカいから必要で、コルセットは昔の癖だな。ここから漏れるのが一番痛いからなあ」
「あー……分かる気もする」
「だろ。ま、ぼちぼちやってこうぜ。お互いにな」
拳を突き出して待っていると、ダミアンは作った握りこぶしで頬を殴ってきた。
さっきのお返しなんだろう。女の顔を平気で殴るコイツは男女平等主義者だ。
まぁ、そうだろう。やけに親しげにしているが、コレは兄であって兄ではない。
こっちの世界だなんだってフツーに言っているのは、私が『前世の記憶持ち』と公言をしている訳ではない。
「いちち……くそ兄貴が」
「強く殴ってはない。レナータはもっと淑女らしく振る舞った方が良いぞ」
「それができりゃあ良いんだがなぁ~」
コイツ。私の双子の兄であるダミアン・フォン・オーガスディアがあの女勇者の『前世の記憶持ち』だからだ。
「なに、なんだよ。凝視して……」
「いンや」手をひらひらとさせて。「なんでもねーさ」
取っ組み合いの時、飛んでいく最中に私が繰り出した蹴り上げが顎にヒット。そして地面に落ちた時に自我が芽生えたらしい。
なんともオモシロ話だ。互いに殺し合った二人がこうして双子として生まれ変わっているなんてなぁ。
「ヨイショッ! 講義に戻るかな~。おんぶ~」
「はいはい」ドカッと乗ってやった。「ぐぇ」うひ~、高い高い!
まぁ、過去の話は今更深く話をすることでもないだろう。
こっちの世界で14年も経っているのだ。
一緒の学園に入って、お互いの夢を叶えるために色々と奔走中だしな。
・ダミアンは、仲間を守れるような強い奴になる。
・私ことレナータは、ある程度の力をつけ、子どもに囲まれてスローライフ。
腐れ縁みたいなもんだから協力は互いにするようにしてる。
最初の頃は魔王だ何だって嘘を信じたままだったから兄妹仲は最悪だったが、徐々に仲は良くなった。一緒に風呂に入るくらいには仲が良い。というか髪の毛のセットなんて小難しいことはできんのだ。
だから、まぁ「お互いに頑張ろうぜ」って話だったんだが……。
なんの運命の悪戯か。この世界には前世ではいなかった『アイツ』がいる。
「……」
学び舎から別棟に移動をする廊下を歩く栗毛の少年を目で追う。
人当りが良く、平民と貴族の両方から一定の評価を勝ち取っている好青年。
まぁ、貴族から受けている評価は純粋な評価というよりかは『彼の外面』だけに向けられた評価なのだろうが。
「ホンモノの『勇者』がいる世界とはなぁ」
「それも同学年にね」
学園に入ったタイミングで噂は聞いていたが、あえて関わらないようにしていた。
(だって面倒だしな。勇者なんて……)
私もダミアンも勇者はもう経験済み。偽物の勇者だったわけだが。
もう懲り懲りだ。あのような経験は一度だけで良い。二度もしたくない。
だから、勇者にはなるべく関わらないようにする。
勝手に世界を救うなら救ってくれ。どこぞの国の主になるならなってくれ。そういうスタンスで行こう、と私達は決めたのだ。
「……」
としても、運命というのはなんとも残酷であり、愉快でもあり。
私達の
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