08 国賊のレナータに要注意
私はグリュンヴァルト王国の学園に勤める教員の一人だ。
そして、勇者が貴族に取り込まれぬように見張る存在の一人でもある。
そんな私だが、要注意とする人物が二人いる。
レナータ・フォン・オーガスディア
旧名:レナータ・ローゼンクランツ
白髪で淡紅色の瞳。母親はマリアベル・シエル・オーガスディア。父親はアルベルト・シルバート・オーガスディア。オーガスディア家の三女だ。
学園に勤める教員による彼女の評価というのは全体的に見れば高い。
だが、とりわけ素行が悪いのだ。彼女は。
良い意味でも悪い意味でも子どもらしくない。
齢16歳。だというのに、時々見せるその姿は大人ですら畏怖させてくる。
入学時点での成績は座学では総合で首席。
武術の方では目立った成績ではなかった。馬術が少し苦手、だが些末なものだ。
だが、繰り返し言うが彼女は子どもらしくない。
教員ではなく、私人として発言を許されるならば、彼女は「悪魔」だろう。
悪魔と契約したのではなく、悪魔が少女の皮を被っているとしか思えない。
達観をしていると言えばいいか。着眼点や行動や言動が子どものソレではない。
同年代の子ども達と比べようものなら、同年代の者たちが気の毒に思える。
教員に対しても変に期待を向けず、貴族に取り入ろうとする訳でもなく。
見た目は平民にしては美しく──失礼。今は貴族だったな。
とまれ、レナータの評価は概ねこのような形に落ち着く。
そんな彼女に続いて、もう一人。私が要注意としている人物がいる。
ダミアン・フォン・オーガスディア
旧名:ダミアン・ローゼンクランツ
瑠璃色の髪色を長く束ねていて、真紅の瞳をしている。家族構成はレナータと同じ。
彼の学園内の評価は高い。貴族と平民をごっちゃにした評価でも抜きん出ている。
入学試験の座学ではそこまで振るわなかったものの、神学の点において一位。
そして武術の方では剣術と槍術、他の科目でも一位であった。
こちらも馬術が足を引っ張っていたが、当時は一代貴族であったローゼンクランツ家の長男。馬なんぞいなかったはずだからこれが妥当。
賢人のレナータ、武人のダミアンと呼ばれるだけはある。
が、彼も問題点がある。友人が極端に少なく、他者への警戒心が高い。
己のものに近づくならば、その喉元に食らいついてやる、と時折見せるその気迫に教員も学徒も怯えることもしばしば。
その代表がレナータの存在か。彼女に声をかける男子学生は気の毒だと思う。
妹が大好きなんだね、で済むような話ではない。当の本人──レナータ──はそんなことを知る由もないだろうが。
その妹も妹だ。べったりと一緒にいて、ダミアンに女子学徒が声をかける隙もなし。
「仲良し兄妹だね。仲睦まじいね。じゃないわボケ。仲良すぎじゃアホ」
という声がよく聞こえてくるのも仕方がない。
眉目秀麗であるが故に、手を出して火傷する学徒が多いのだ。
あの二人、なんであんなに仲が良いんだよ。この前おんぶしてたし。
旧名の件で言えば、彼女らは『ローゼンクランツ』という家名を持っていた。
それが辺境に領地を持つ諸侯のオーガスディア界爵に向かい入れられた訳だ。
オーガスディア界爵は外務大臣に選ばれる文官であり、その影響というのは貴族の中でも低くはない。
だからこそ、レナータとその兄であるダミアンへの対応に困っている訳なのだが。
(というか、家庭環境複雑過ぎ……)
ローゼンクランツ家の領主であり、二人の母親である『マリアベル』は国賊と言われているのだ。その理由は長くなるので省くが。
その国賊の血が入っているのがレナータとダミアン。
入学当初は
のだが『マリアベル』をオーガスディア界爵が娶ったことで、子どもらも貴族の仲間入り。
くそ、オーガスディアめ……。平民だったら対処せずとも良かったのに。
(胃が痛い……!!)
ここまで話をまとめながら、目前にいる二人の貴族の令息に話を告げる。
「オーガスディアをくれぐれも勇者に近づけさせないように」
「……どちらの、ですか」
「両方だ」
私は蟀谷を揉む。あぁ、頭が痛い。
教員の役割は『勇者が貴族に取り込まれぬように見張る』ことだ。
勇者という今までに聞いたことのない新たな異能への対応がまとまるまで、健やかに学園生活を送ってもらいたいのだ。
そのためには「成績優秀だけど国賊の血が入った平民」から「大臣の次男と三女(国賊の血入り・成績も優秀)」になったオーガスディアの二人が悩みの種過ぎる。
特にレナータの方。勇者を狙うようなことはないだろうが。それでも、勇者が取り込まれたら面倒だ。
そうだ。それも付け加えておかなければ。
「レナータ・フォン・オーガスディアの方を特に警戒をするように、と」
「無害なように感じますが」
「ばか、アイツはローゼンクランツのガキだろ。国賊の血が入ってる。国賊のレナータだ」
「そうか。そうだったな。ですが、色仕掛けできるような体ですかね」
「……」
教員としてはノーコメント。だが、まぁ、そりゃあそう。私だってそう思う。
だって、アイツが誰かに股を開く所なんて想像できない。
そもそも、ローゼンクランツ時代の平民だった頃にでさえ貴族の──それも確か、子爵の次男だったか──お誘いをぶん殴って断ったのだ。
『てめぇみたいな奴に股を開く趣味なんてねぇよ!』
まじで意味が分からん。普通そんなことできる訳ないのに。アイツなんなんだよ。
だからこそ。なにをしでかすか分からないからこそ!
「要注意だ。くれぐれも頼むぞ」
彼女を警戒をしておくに、越したことはないのだ。
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