第7話 思わぬ再会

 翌日。授業が終わり、バッグに教科書類を詰めていると、美羽がやってきた。


「奏音ー! 今日、帰りにカフェいかない? 近くにめちゃくちゃオシャレなのできてたんだ!」


「あー……」


 奏音は一瞬戸惑った。不登校になる前は、友達はいたものの、こんな風に誘われたことがなかったからだ。


「ごめん、今日仮入部行くんだ」


「あ、そうなの? どこの?」


「……吹部」


「えっ?」


 美羽は思わず目を見開いた。


「吹部行くの?」


「うん」


「へー……」


 美羽は困ったように目線を動かした。


「……明日なら空いてるから、カフェは明日でいい?」


「あ、うん!」


 奏音が提案すると、美羽はパッと顔を明るくした。


「じゃあ明日ね!」


 軽く手を振った美羽が教室を出ていく。


(……何でさっき、困ったみたいな顔してたんだろう)


 内心首を傾げたが、


(でも、私もあの状況なら、何て言えばいいかわからないかも。多分、そうだよね。そんなに気にすることではないよね)


 結論を出した奏音は音楽室がある四階に向かった。



 音楽室前の壁に、裕真が寄りかかっていた。


「裕真? 何してるの?」


 奏音が歩み寄ると、裕真は持っていたスマホから顔を上げた。


「……待ってた」


 それだけ言って、音楽室に入る。


「え、ちょ、ちょっと……!」


 奏音は少し頬を染めながら裕真を追いかけて音楽室に入った。音楽室にはすでに一年生が十人ほどいて、好きな楽器を体験していた。


「あ、君は確か裕真君だよね。後ろの子は初めてかな?」


 入口近くの机に座った二年生の女子生徒が笑いかけてきた。


「じゃあ初めての子はこの用紙に名前と学籍番号、あと、中学で吹奏楽部入ってたなら何の楽器やってたかも書いてね」


「はい」


 頷いた奏音は机においてあった鉛筆を手に取り、書き込んだ。


「……」


 中学校時代の、経験楽器。ホルンと書くべきなんだろうけど。


「……書いたほうがいいぞ」


 奏音を待っていた裕真がぼそりと呟いた。


「……うん」


 少し考えた奏音は空欄にホルンと書き込んだ。


「ありがとう〜。それじゃ、好きな楽器のとこ行っていいよ!」


 頷いた奏音はホルンを吹いている女子生徒の元に向かった。


「あの……」


「あ、体験?」


 奏音が声を掛けると、スケールを吹いていた二年生の女子生徒が振り返った。奏音を見た女子生徒の目が驚いたように開く。


「え……奏音ちゃん……?」


「えっ?」


「奏音ちゃんだよね!?」


 女子生徒がホルンを持ったまま立ち上がる。


 奏音は思わず一歩下がった。それと同時に体中の熱が一気に冷えていくのを感じた。


「二年生の遠藤えんどうさくらだよ!」


「え……」


 確かに、いた。自分の先輩だ。けれど、わからなかった理由は――


「あ、やっぱりわかんない? イメチェンしたからなー」


 桜はボブカットのウェーブのかかった髪をつまんだ。


「高校入ってバッサリ切ったんだ。ロングヘアも好きなんだけど、やっぱり短い方が手入れも楽なんだよね〜」


 中学校の時と変わらないテンションで話してくるが、奏音は呆然と突っ立っていた。


(どうして、どうして)


 それだけが頭の中をぐるぐる回っている。

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