第3話 部活紹介

 ステージに出てきたのは、高身長の男子生徒だった。


「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。初めまして、生徒会長の井浦いうら達希たつきです。今日は部活紹介です。部活に入り、仲間と過ごす時間もとても大切なものです。ぜひ、自分が入りたいと思う部活を見つけてください」


 達希が頭を下げると、大きな拍手が沸き起こった。


「わ〜! あの生徒会長イケメン!!」


 前の列に座っている女子達が黄色い声を上げている。


(……確かに、かっこよかったけど)


 奏音の脳裏に裕真の微笑んだ顔が浮かび、ハッとする。


(なんでだろう。なんで裕真の顔が……)


 その時、「こんにちは!!!」と野太い大声が体育館に響き渡り、奏音は肩を跳ね上げた。ステージにはいつの間にか硬式野球部が並んでいる。


 それからはしばらく、運動部の紹介が続いた。


「わたし、どこかのマネージャーやろうと思ってるんだけど、奏音は?」


 運動部の紹介が終わり、休憩に入ったとき、美羽が訊いてきた。


「……まだ、決めてない」


 奏音は首を振った。


「けど、運動部は入らないかな」


「運動苦手なの?」


「うん、体力なくて」


 苦笑した奏音は前を向いた。


「んー、でも確かに、奏音全然日焼けしてないし、インドアっぽそう。中学、何入ってたの?」


 ――遂に聞かれた。奏音は一瞬顔を強張らせた。


「……何にも入ってなかったよ」


「ふーん……」


 肘を太ももに付き、頬杖をついた美羽は探るような目つきで奏音を見た。



 それから十分程が経ち、文化部の紹介が始まった。


「こんにちは! 吹奏楽部部長の三雲みくも來亜らいあです!」


 楽器を持って立っている部員達の前に立ち、高身長の男子生徒が爽やかな笑みを浮かべている。


「え、あの人めちゃくちゃかっこいい!」


 美羽が目をキラキラさせて來亜を見ている。奏音の目には、光がなかった。


「僕達吹奏楽部は、顧問の別所べっしょ藍子あいこ先生、副顧問の神月かみづき宏樹ひろき先生のご指導の元、三年生二十人、二年生二十三人の、計四十三人で活動しています。今日は一曲、皆さんに僕達の演奏を聴いていただこうと思います。誰もが一度は聴いたことがあるような有名な曲です。それでは聴いてください、『宝島』!」


 來亜が言い終わると同時に、アゴゴベルの特徴的なリズムが鳴り始めた。管楽器が手拍子を始め、釣られて一年生達も手拍子を始める。來亜の短いドラムソロのあと、金管楽器のメロディーが響き始めた。


「――っ!?」


 その音色を聴いた途端、奏音の目に光が戻った。


 四十三人が織り成す、音楽。


(……何、これ……すごい……!!)


 伸びやかに響き渡るメロディーに、綺麗に揃った和音。脳まで震えさせるような音圧。一人ひとりが、自分の役割を理解したうえでその役割に沿う様に演奏している。それに加え、一糸乱れぬパフォーマンス。その音楽に、奏音はすっかり取り憑かれてしまった。


(……あれだけ、トラウマだったのに。やっぱり、私って……音楽からは、離れられないんだ。大好きなんだ)


 音楽を聴いて、こんなに心が安らいだのはいつぶりだろうか。奏音は優しい微笑みを浮かべながら聴いていた。

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