第2話 新しい友人

「ねえ、次体育館で部活説明会だったよね?」


「そうそう! 一緒に行こう!」


 それから一週間ほどが経った。


 クラスメートはだんだん仲良くなり始めているが、奏音は特に誰とも話していなかった。裕真ともクラスは別で、あれからはすれ違っても話すことはなかった。


「何部入るつもりなの?」


「うーん、中学はバレー部だったんだけど、高校は別のにしようと思ってて。マネージャーとかやってみたいんだよね〜」


「あ〜、いいね! 私は中学と同じ、演劇部かなぁ」


 隣を歩く他クラスの女子二人が話している。奏音は一人で体育館に向かっていた。


(……部活、か)


 燕学院は、一年生は確実に部活に入ることになっている。


(運動部は絶対入らないし……あまり活動がない、映画部とか、かな。写真部とかも少し興味あるけど……)


 体力がない奏音は、最初から運動部に入る気などない。


(……なんでだろう。なんか、しっくりこない。モヤモヤする……)


 奏音は真っ黒なストレートの髪のサイドを指に絡ませた。悩んでいるときの奏音の癖だ。


 体育館についた奏音はクラスごと出席番号順にパイプ椅子に座った。


「お前、またサッカー部か?」


「どうしようかな~。別なやつやってみてもいいんだけどな」


 隣に座っている男子二人が盛り上がっている。高校入学前からの知り合いのようだ。


(……いいな。私も、人見知りじゃなきゃ、話せたのに……)


 そんな事を思った瞬間。


「ねえ、西野にしのさん……だっけ」


 男子二人とは逆の方向から声をかけられた。驚いて左を向くと、緩く巻かれた長い髪をポニーテールにした気が強そうな女子が奏音を見ていた。


「え、えっと……」

 

「わたし、長峰ながみね美羽みう。よろしくね」


「よ、よろしく……」


 奏音はおどおどと軽く頭を下げた。


「そんなに緊張しなくていいよー! ねえ、名字じゃなくて、名前で呼んでもいい? 西野さんも呼び捨てでいいからさ!」


「え? あ、うん……美羽?」


 奏音が勢いに押されて名前を呼ぶと、美羽は嬉しそうに笑った。


「うん! よろしくね、奏音!」


(……なんか、あったかい)


 勢いは強いけど、笑った顔は太陽のように暖かかった。奏音もつられて少し微笑む。


「あ、やっと笑った」


「え?」


「入学式の日さ、席で本読んでたでしょ? あの本、わたしも好きだから話す機会探してたんだけど、笑ってたところ一回も見たことないんだよね」


「……そういえば、そうかも」


 裕真と会ってしまったことで、この一週間はずっと下を向いていた記憶しかない。確かに、ほとんど誰とも話していなければ笑ってすらいない。


 その時、体育館の照明が落ちた。それと同時にステージが明るくなる。


「あ、始まる!」


 美羽がステージに視線を向けた。奏音も美羽から視線を外す。

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