第12話 アパート

 「そう言えばだが……」


僕は風を全身で受けながら彼女に問いかける。

自転車に乗りながらの会話だ。

彼女に付いていくような形で漕いでいる。

そして、言葉を紡ぐ。


「家族とかは居ないのか?」


これから彼女の家に行くのだ、事前情報としてそれくらいは知っておかないといけない。

この質問は時折、爆弾になりかねるが例えなったとして僕は気にもとめないだろう。


「ううん、居ないよ。一人暮らしなんだ。」


「奇遇だな……僕も一人暮らしだ。別に不便なことはないし気楽にやってるよ。」


彼女との共通点があるのはなんだか嫌だが簡単に変えれるものでも無い為我慢するしか無い。


「ところで、まだ着かないのか?」


「いや、もうすぐで着くよ。ほら!見えてきたあれだよあの家!」


そう言い、彼女が指を指したのは3階建てのアパートだった。

閑静な住宅街に佇むそれは周りの家のどれともそぐわない異様な雰囲気を醸し出していた。

アパートは白い壁で豆腐のような形をしていて2階建てなのが遠くから見ても分かる。

自転車のペダルを押すのと比例し、どんどんそれはクレシェンド(大きくなっていく)。

やがて、アパートの巨大化が止まると僕等は自転車を降りた。


「綺麗なアパートじゃあないか。最近出来たのか?」


「結構前からあったよ。多分、誰かが綺麗にしているんだよ。」


「ふーん、早速部屋まで案内してくれ。」


僕は彼女に連れられアパートの2階に上る。

その間、僕はアパートを舐め回すように観察した。


「ここだよ!ここが私の部屋!」


彼女は、自慢気に言った。

そこで、僕は違和感を覚えた。

彼女の部屋があるのは不自然だ……と。

観察の結果、このアパートはおおよそ立方体になっていることが分かった。

だが、彼女の部屋はその立方体を崩すようになっている。

直方体の左端の縦1列を無くしたような感じになっているのだ。

遠くから見たときは分からなかったが後で付け足したような奇妙な形をしている。

このアパートをデザインした人は、何を考えていたのだろうか……

それはどれだけ考えても予測にしかならない問題だった。


「とって付けたような部屋だな。」


僕は試しに彼女にそう言ってみた。

彼女がこの事に気づいていれば何かしらの反応を示すと思ったからだ。

さらに言えば何でこんな形をしているのか知っていて教えてくれるかも知れないという意図もあった。

しかし、それは華麗にスルーされ部屋内に案内された。


「……お邪魔します。」


そう1言添えてから靴を脱ぎ、玄関で揃える。


「さぁどうぞ、入って入って!」


玄関から真っ直ぐにのびている廊下はツルツルで綺麗に磨かれていた。

壁には絵が立てかけられており、奇妙な外見とは裏腹にお洒落な内装だった。

部屋を見渡しながら彼女に付いていく……

意外と広いんだな……とそんな事を考えながら……

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音楽 杜鵑花 @tokenka

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