第11話 空き教室

 空き教室は、随分前に使わなくなった為、掃除が行き届いていなく、埃っぽい。

木製の床は所々コーティングが剥がれている。

掃除用具入れはへこみ、一種の芸術作品のようになっている。

唯一、黒板だけがここを教室だと思わせるものだった。

そんな教室の真ん中に佇む人間が1人……


「何の用だ?僕はこの後、君と違って予定がギッシリなんだ。速く済ませてくれると嬉しい。」


「何の用って……分かってるだろ?」


「いや、さっぱり分からないな……おや?君は楓原サマについて回っている奴じゃあないか。ふむ……大体の要件は理解した。」


「だったら……」


「お断りだ。」


僕はそう言い、次の台詞の為に大きく息を吸った。


「僕は別に彼女の事が好きとかじゃあ断じてない。寧ろ離れられたら楽になると思う。が、こっちにも事情ってのがあるんだよ。君には到底、理解出来ないようなふかーい理由がな……それと、アホの命令に従うのは癪に触る。以上だ。僕は帰らせてもらう。」


僕は体を翻し教室のドアまで歩いた。


「ふ……ふざけるんじゃないぞ!!こうなったら力づくで!!」


「不都合があったらすぐに暴力で解決しようとする……そういうとこだ。大して強くない癖にな……」


僕は避けようともしない。

拳が僕の背中に当たる……しかし、僕が痛みに悶える事は無かった。


「今度こそじゃあな……後、2度と関わるんじゃあない。」


僕は空き教室を立ち去った。


 廊下で、僕は念の為背中に入れておいた教科書を取り出した。

あんな事言ったが僕だってそこまで強い人間でも無い。

あんな攻撃が当たっていたら骨折ぐらいはしただろう。

もし、骨折したら2、3ヶ月は動けなくなる……それは僕にとって最も最悪な事だ。

茨の道は避けて通らないといけない。

さて、楓原はもう随分遠くに居ることだろう。

別に約束を破棄して1人で家に帰っても問題無い……が、それは人としてどうだろうか……

僕はまだ若い……人としてのプライドをこんなに早くに失いたくない。

走るか……

完全下校は恐らく過ぎている。

徘徊している先生達に見つかったら少々面倒臭い事になるかも知れない。

僕は限界まで警戒をしながら靴箱まで走った。

そして、靴を履き替えようとした直後、『ワッ!』と声がした。

僕は驚いて片足で前に3歩進んだ。


「びっくりしたーなんだ……待ってたのか先に行ってろって言ったのに……」


「だってー全然来ないから……トイレにしては長くない?」


「そこら辺は、まぁ察してくれ。」


「……分かった。」


「じゃあ気を取り直して行くか!」


僕等は歩き出した。

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