第10話 短縮

 昼食を食べ終わった僕等は教室に戻った。

先程まで、男子生徒の大半がダウンしていた為、少し騒がしくなっていた。

先生達―――音楽の先生は居ない―――が集まり、話し合っていた。

生徒を早めに帰らせるか等の声が聞こえてくる。

もし、早めに帰る事になったら嬉しいが……放課後、音楽室に行けなくなるのはちょっと残念だ。

ま、どっちに転んでもメリットはあるから良いか……


「何があったんだろう。」


この騒ぎを起こした張本人がそんな事をほざいている。

気づかなかったのだろうか……それとも気づいた上で言っているのだろうか……


「さぁな、知らないなら知らないでいいんじゃあないか?」


「えー気になるじゃん。」


「自分の胸に手を当てて考えてみたらどうだ?」


その時、チャイムが鳴った。

僕等は話を止め、急いで教室に入った。

自分の席に座ると、周囲がガラガラなのに気づいた。

暫くして、僕等の担任の先生が教室に入ってきた。


「……皆は知ってると思うがクラスの大半の男子がいきなり倒れた。その為、今日はもう帰ることにする。さぁ、帰りの準備を始めてくれ。」


先生はそう言い、教卓に座った。

周囲に、高い声のざわめきが起こっていた。

殆どが歓喜の声だった。

さて、僕もさっさと準備するかな……


 その後は、いつも通り帰りの挨拶をして教室を出た。

夕日を浴びながらじゃあ無く、昼間の日差しを浴びながら帰るのは少し新鮮だ。

不意に、肩を叩かれた。


「一緒に帰ろ!」


彼女は何故そこまでして僕に固執するのだろうか……何か深い理由がありそうだ。

まぁ、あったらあったで僕にはそこまで関係しないが……


「良いが……別に楽しくは無いと思うぞ。」


「じゃあ、帰ろう!あっ!そう言えばさ、今日時間ある?」


「い、いや?無いが……」


「分かった!あるんだね!」


「おい!それじゃあ自問自答と変わらないぞ!」


「今日、勉強会しない?」


「は?勉強会?僕の話を聞かない奴がそんな事をして意味なんかあるのか?」


「ついでに料理も教えてよ!」


耳が無いのか?と言おうとしたが止めた。

キリがない。


「はぁー……今日はやりたい事があったんだが延期にしてやるよ。」


「やった!!早速行こう!」


彼女はスキップをしながら進み出した。

僕はそれに追いつけるように歩を速めた。


「……ちょっと先に行っててくれ。すぐに追いつくから。」


「何でー?一緒に行こうよ。」


「トイレだよ。いいから速く行け。」


僕はとある空き教室で1人の男子生徒が手招きをしているのに気づいた。

相手は恐らく僕だ。

呼び出しならそれに応えるしか無いだろう。

僕は彼女にトイレに行くと偽って空き教室に向かった。

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