第9話 昼食
向かった先は『音楽室』だ。
この学校は珍しく、昼になると職員室以外の全教室が開放される。
彼女が言っていた場所は恐らくここだ。
僕と彼女が出会った場所……忘れる筈が無い。
何故なら昨日だから。
音楽室内にたまに先生が居ることがあるが今日は先生は屋上に居る。
わざわざ音楽室に戻ってくる事も無いだろう。
「やっぱり、ここだよな……」
僕の声が放たれ、壁に吸収される。
2人しか居ない音楽室はやけに静かだった。
その所為か音楽の偉人達の視線がより強く感じた。
「あー来た。ちょっと遅かったね。何かあったの?」
「いや、何も。ただゆっくり来ただけだ。それよりも、だ。あの『壁ドン』は何なんだ?場合によると暴行罪に値するが……」
「えっ?!いや、あれは……その……違うの!押されて、たまたまああなっただけで……」
「逃さないからとか言ってたが?」
「……」
彼女は黙ってしまった。
僕は困った。
彼女が黙ったままでも問題は無いのだが……
「まぁ、良いけどな。これからは出会って2日目の奴にそんな事をするなよ。」
以前は、監視をするから距離を詰めてきているんじゃあないかと思っていたが、違うような気がする。
やり過ぎなのだ。
監視するにしても壁ドンなんかしなくても問題ないだろう?
「と、取り敢えず、昼ごはん食べよう!」
僕はホッと胸を撫で下ろした。
2人きりで黙食をする覚悟はまだ出来ていなかった。
「そうだな。」
僕は、弁当箱の包みを外した。
軽く結んでいた為、簡単に解けた。
本当はちょうちょ結びの方が良いんだが生憎、僕は固結びしか出来ない。
しかも、固結びだと中々解けない為、弁当箱は固く結んでいない。
パカリと弁当箱の蓋を開ける。
中には定番の卵焼きとその取り巻き達が入っていた。
「わぁ、美味しそうー!」
「早速……いただきます。」
僕はまず、卵焼きを食べた。
味は言わずもがな絶品だった。
朝、早く起きて僕が料理をしたのだ不味い訳が無い。
「美味しそうな卵焼き……ねぇ、1つ貰っていい?」
「嫌だ。断る。自分のを食べろよ。」
僕がそう言うと、彼女は不貞腐れたような表情をした。
彼女はespressivo(表情豊か)だなとその顔を見て僕は思った。
「あ!UFO!!」
「何?!何処だ?!何処に居る?!」
僕は彼女の罠とも知らずにまんまと引っ掛かった。
「なんだ……何処にも居ないじゃあないか……って、おい!僕の卵焼き食べたのか?!おいおいおい、一体どのくらい罪を重ねていくと気が済むんだ?」
「えっ?!凄く美味しい!!どうやって作ったの?」
彼女は僕の質問に耳も貸さずに僕にそう聞いてきた。
「何も特別な事はしてないが……」
「今度料理教えてよ!」
「……まぁ良いよ。話は聞いてほしいけどな。」
僕は自分にメリットがあるか否かを思考し、そう結論づけた。
声が響く事の無い音楽室……それはそれで良いのだが何処か寂しい。
音楽室は音を楽しむ場所じゃないといけないと僕は弁当を食べながら思った。
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