第7話 質問


 「私がさっき弾いていた曲か……あれは適当にそれっぽく弾いてただけだ。何故、そんな事を聞くんだ?」


「僕は音楽マニアなんで……自分が知らない曲を弾いていたら気になるんですよ。」


屋上での先生との対話……怪しまれないようにゆっくり着実に情報を引き出していく。

先生は未だにタバコを吸っている。

僕にはタバコの銘柄は分からないがケースは赤色だった。

話のネタぐらいにはなりそうだ。


「ところで、タバコ……吸われるんですね……」


「教員が吸っちゃあ悪いか?」


「いや、そんな事無いですけど……最近始めたんですか?」


「何でそう思う?」


「いや、変わった持ち方してるので……」


「うん?そうか?最近始めたって訳じゃあ無いが久しぶりだから忘れてた。」


そう言い、先生はタバコを普通の持ち方に直した。

モクモクとタバコの先から副流煙が立ち上り、風で流されていく。

それはまるで雲のようだった。


「それより、私に聞きたい事って言うのはさっき弾いていた曲だけでいいのか?」


「いや、まだまだありますよ。聞きたい事が……」


「そうか。なるべく簡潔に頼む。ゆっくりしたいんだ。」


「じゃあ、なんで教員になったんですか?サボるなら他の職業の方が良いでしょう?」


「確かに、そうだな。まぁ、こっちにも事情があるんだよ。」


「その事情とは何ですか?」


「秘密だ。何で私にそんな質問をするのか分かりかねるがそこは教えれない。」


「そうですか……残念です。」


僕は一応落胆の声をもらした。

そこまでする必要性は無いが、大体の予想が付いたから良しとしよう。


「質問は以上か?もうそろそろ1人になりたいんだが……」


1人か……この先生は俗に言う1匹狼的なタイプかも知れない。

色々と大変そうだが気楽さを求めるならこっちの方が断然良いだろう。

何事もそうだが何かするには必ず『責任』が付いてくる。

それを放置したら何もできない。

僕はそれが嫌でなるべく『責任』が少なくなるように立ち回っている。

それは実に面倒臭い事だがそれなりの『価値』がある。

先生も、それに気付いているのだろう。


「そうですか。じゃあ今日はこれぐらいにしときます。授業も終わりそうですし……」


4時限目の授業が終わりそうな頃だ。

4時限目の後は昼食なのでなるべく早くしたいところだ。


「そうか……私も、そろそろ昼食を食べようかなって思ってたんだ。勿論、『屋上』で。」


「じゃあ、時間があったらまた来ますね。」


僕はそう言い残し、チャイムと同時に屋上を出た。

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