第5話 授業
『音楽室』に入ると目に飛び込んでくるのは言わずもがなピアノだ。
先生が細長い指を鍵盤の上で躍らせながら演奏をしていた。
曲名は分からないがどこか懐かしさを感じる曲だった。
全員が席に座ると、先生はピアノを演奏するのを止め、黒板前に立った。
先生が合図を出すと、学級委員を中心に号令が始まる。
号令が終わると、校歌を歌う時間だ。
僕はこの時間を心の底から無駄だと思っている。
それも終わると、やっと授業だ……が……
先生は一向に授業を始めようとしない。
「あのー、もうちょっと声を出したら良いんじゃあないですか?……もう良いです。今日はもう授業をやりません。」
正確には、今日もだ。
この先生は絶対に授業をやりたがらない。
いつも何かと理由を付けてやめている。
そろそろ理由のレパートリーが無くなるんじゃあないかと思って来てみたが……この様子じゃあまだまだありそうだ。
こんな先生が何故、教育委員会に訴えられないのか。
それは誰しもが抱く疑問だ。
しかし、このクラスの生徒は大してその疑問に突っかかる事はしない。
むしろ生徒からは人気を集めている。
何故かと聞かれたらこう答える。
勉強が好きな奴がいるか?
それに、この先生は全く怒っていない。
「先生、面白い話してくださいよ!」
生徒の内の1人がそう言った。
普通ならこんな事をこんな時に言ったら職員室行きだ。
だが、この先生は例外だ。
「面白い話か……良いですよ。」
先生は確かにそう言った。
建前上は怒っている……だが建前はあくまでも授業をサボるツールでしか無い。
「そうですねー、皆さんは『未来』の事って考えてたりしますか?」
未来……未来ね。
先生が面白い話をする時はいきなり突拍子も無い事を尋ねてくる。
そんな事が分かるまでこの下りを繰り返している。
「ぶっ飛び過ぎじゃあないですか?」
先程の生徒がそう言った。
「ふふっ、そうですね。じゃあ、『音楽』は好きですか?」
先生は気味の悪い笑顔を浮かべながら言った。
『未来』と『音楽』その関係性はあるのか?
僕は少しばかりの焦燥感を身にまといながらそれの答えに頭を巡らせた。
僕の中には思い当たる節があった。
ただそうなると僕はちょっと面倒臭い事をしないといけなくなる。
「『音楽』と『未来』これらの関係性ははっきり言ってありません。ただ、『音楽』の『未来』はどうなっているのか?などと考えてみたら面白いでしょうね。」
僕は焦燥感から開放された……が、この先生は確実に何かあると分かってしまった。
その後、先生は他の話をして授業を終えた。
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