第4話 屋上

 やむを得ず了承してしまった。

そうするしか道は無かった。

あの後僕は彼女との会話をなるべく速く断ち切り、ある場所に向かった。

その場所は言わずもがな『音楽室』と言いたかったが他のクラスが使用している。

なので僕が来たのは『屋上』だった。

1時限目はサボる……そういう気分になった。

今の僕には正直、授業を受ける必要性が全くと言っていいほど無い。

授業なんか受けなくても僕は地頭が良い。

テストなんて余裕だ。

それに―――

その時、不意にフォルテ風が吹いた。

親が外人という訳でもないのに白い地毛がなびく。

それと同時にフェルマータの形を模したイヤリングも揺れる。

この学校に容姿に関する校則は無い。

それが僕がこの学校に入る最後の一押しとなった。

心地良い夏の風……

僕の家は丁度、屋上から見える位置にある。

風のお陰で自宅周辺の木々が音を出した。


 僕は学校のチャイムで目を覚ました。

この学校は時計塔のビックベンの鐘の音をチャイムにしている。

どうやら寝てしまっていたみたいだ。

僕はいつの間にか屋上の真ん中で大の字になっていた体を起こし、屋上から出た。

そして、教室に戻り、僕は安堵した。

3時限目の音楽の授業には間に合ったと……

1、2時限目の約100分間の間だけ寝ていたらしい。


「1、2時限目居なかったけど大丈夫?」


普段、サボりから復帰しても何も言われないが今日は違った。

彼女……楓原神居が心配の声を掛けてくれた。


「……問題ない、ただのサボりだ。」


一瞬、思考が停止したが、僕はそう答えた。


「あまり、サボるのは良くないよ?」


「余計なお世話だ。」


僕は冷たくそう返した。


「次は音楽だよな?」


「うん!一緒に行こう。」


周囲の目が気になる所だがもう手遅れだろう。

確実に、放課後何かが起こる……いや、もしかしたら昼休みかも知れないな……


「あぁ、行くか……」


僕は、彼女についていた方が安全だと思いそう言った。

何故、彼女が僕に絡み始めたのか……それは朝からの疑問だったがおおよそ見当がついた。

彼女がピアノを弾いていたという事を僕に言わせないために見張っているのではないかと……

そこまでして隠す理由は見当もつかないがそれぐらいしか考えられない。


 取り敢えず、僕は音楽の教科書等を準備し、彼女と一緒に3階にある音楽室まで向かった。

道中に、『ビックベンの鐘』がなり始めた為、少しだけ足早に移動した。

音楽室の2重の扉は開いており、先生がピアノを弾いている音が廊下に響き渡っていた。



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