消えた皇子のゆくえ
皇子の失踪
「
木蓮は隣を歩く男の顔をまじまじと見つめる。
「僕もついさっき、刑部の
そう木蓮に返すのは理部長官、
木蓮は礼部との打ち合わせを終え理部殿に帰ろうとしていたところを、その
普段、
残念ながら厳重な警備がなされている後宮であっても、誘拐や拉致というものは起こり得るのである。
「
「今朝、朝餉を召し上がられたところまでは乳母が確認してるそうだよ。そのあと、ほんの少し目を離した隙にいなくなられたみたいだね」
「他に侍女たちも大勢いたでしょう? なのに誰も皇子が消えたことに気づかなかったのですか?」
「それが、その少し前に侍女の一人が急に倒れたみたいでね。皆がその侍女の対応に気を取られたわずかな間にいなくなられたそうだ」
単純に考えれば、その倒れた侍女が疑わしい。誰かと結託して皇子をかどわかした可能性も考えられる。
「今、刑部は大騒ぎだったよ。十五年前のことがあるからね。どうしても皆、あの恐ろしい事件のことが頭によぎってしまうんだろう」
失踪したのはその二人だけにとどまらず、官吏が宿舎に連れて来ていた子息令嬢たちまでも巻き込む、大きな事件へと発展した。
最終的に失踪者はのべ八人に上り、いずれも十歳未満の幼い子どもたちばかりだった。
そのうち七名の死亡が確認されたが、遺体はみつからなかった。
「あの事件は過去のことです。犯人だって、もうこの世にはいないんですから」
「そう思っている人ばかりではないんだよ、
皇子・公主失踪事件の首謀者とされたのが、当時、現皇帝の妃であった
「呪いですか……」
木蓮は遠い記憶に思いを馳せる。
皆そうやって面白がっているのだ。呪いなど余興と同じである。当事者でなければ恐怖だって、つまらない日常に刺激を与える娯楽にしかすぎない。
「蔡君、本来なら君に頼むべきことではないと思うんだけど、今日これから
申し訳なさそうに眉尻を下げて言う
「なぜですか? まさか本当に彼女の呪いのせいで皇子が消えたと?」
「僕も十五年前の事件とは関係ないと思うんだけど、刑部がね、調査したがっているんだ」
「なら刑部の官吏が行くべきでは? なぜ私なのです?」
「刑部のものたちは、
「つまり、刑部のものたちは調査したいけれど、呪いが怖くて近寄れない。だから私に見てこいと?」
「そう、なんだ。うち結構、刑部に借りがあるでしょう? 無下に断れなくてさ。よりによって蔡君に頼むのは気が引けるんだけど。……皇子のことはあまり下の者に話せる内容じゃないから」
木蓮は呆れ気味に肩を落とした。
「分かりました。要は『見てきた』という事実があればいいのですね」
「うん。ごめんね。誰か他にも一緒に行かせようか?」
「いや一人で十分です。見てまわるだけですから」
木蓮は朱門の前で
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