第3話 柿の木🌳

 今度は道場の横の庭を駆け抜けて行くルナの姿が見えた。


「ルナでも走ることあるんだ」

「兄ちゃん、それにルナ笑ってたし」


 稽古の終わった遼平と一之介は帰り支度をしていた。


 キャハッハッハ。

 ルナは嬉しくてたまらなかった。


裏の庭の柿の木に梯子がかけてあった。


「本当にルナちゃん、のぼるの?」

「うん、平気」


 ルナはフミヤの抑える梯子を上って行くと、鋏を使って、次々に腕に通したポリ袋に入れた。


「あっ、柿泥棒」


 遼平が大声を出したものだから、ルナは梯子からずり落ちそうになった。

 慌てて駆け寄った遼平はルナの身体を支えた。


「これくらいでビクつくなよ」

「だって、びっくりしたんだもの」

「それにしても柿泥棒はない」

 

 フミヤさんに言われ遼平は照れくさそうに笑った。


「ルナ、まだ採るのか?」

「うん、ひとり1個として10個、あっ、ヨッシーも入れて11個」

「すごいな、なくなってしまうのじゃないか。いいんですか? フミヤさん。」

「いいよ、鳥の餌になるだけさ」

「ルナ、兄ちゃんが取ってやる。鋏を寄こせ」

「気を付けて、ぼく、子どもの頃、梯子から落ちてケガしたんだ」

 フミヤが心配そうに見上げた。





「ああ、ソフトクリーム食ってる。一口くれよ」

「いやよ、お兄ちゃんの一口でっかいもん。あれ、ルナのコーラは?」

「邪魔だったから飲んでおいた」

「あと口に欲しかったのに。お兄ちゃんのバカ」


 助手席からナオの声がした。


「喧嘩しないの。どうしたの?」

「ママ、お兄ちゃんが」


 遼平は慌ててルナの口を塞いだ。


「ママ、気にしないで。ぼくたち仲良くやってるから」


  ナオは一平と一つのソフトクリームを交互に食べていた。


「トイレはいいんだな。ここからノンストップで行くよ」


 後部座席は背もたれを倒してシートを二つくっつけ平にしていた。

 ルナは遼平の足を蹴った。すると倍くらいの強さで蹴り返してきた。


「痛い。お兄ちゃん、痛い。ヨッシー、やっつけて」

「え~」

「いつも、あいつ殴ってやろうかって言ってるくせに」

「さすがにお兄さんは殴れないよ」


 ヨッシーは静かに腕組みしていた。


「ルナが3歳の頃、風呂に入れてやったんだぞ。その恩義も忘れたか。コンディション、あれっ、何だっけ?」


 一之介が口を挟んだ。


「コンディチョナーもちけてってルナが言うから、ぼくがやってやったんだ。それで兄ちゃん終わらせようとするから、そのあと流さないとって」

「そうそう、一はよく覚えてるし、知ってる」

「ママがするのを見てたんだ」


 ルナは鼻を摘まんで、


「鼻に水が入って痛かったの覚えてる」

「嫌な記憶しかないんだな」


 ルナが突然歌いだした。両手に振りまでつけている。


 おんまが走る、パッパカ走るう🎵


「ルナ、本当にそれ好きだな。それにもだいぶ付き合わされたんだぞ」

「瑠璃子さんところでお馬に乗せてもらえるんでしょ」

「高くて怖いって泣くなよ」

「お兄ちゃん、自分が乗れるようになったからって」

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