あらあらまぁまぁ!糸目のいつもニコニコお姉さん気質の有能な令嬢は、みんなに愛されている

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あらあらまぁまぁ♪

シオン・クロイツ公爵令嬢はスレイン王国中に名前が知れ渡っている名物令嬢である。


まだ16歳の若さではあるが、誰もが一目置く人物である。美しい腰まである金色の髪に、170センチはある身長で、モデル体型の美人であった。

糸目でいつもニコニコしており、シオンに会った事のある人物は誰もが好印象を抱くのだ。



シオン令嬢のデビューとしてこんなエピソードがある。


とあるお茶会の出来事である。

まだ幼い令嬢達が参加する王族主催の会場で、クロイツ公爵家の長女として参加した時であった。


ライバルである、別の派閥のガーネット侯爵家の令嬢に絡まれた時であった。


「おーーーーほほほほっ!クロイツ公爵家ともあろう者が、そんな貧相なドレスで王家のお茶会に参加するなんてみっともないですわね~~」



他の参加者は色とりどりのドレスを着てきており、フリルがたくさん付いた物や、リボンで可愛く飾り付けしてある物など様々だった。


それに引き換え、シオンはシンプルなシルク素材でできた真っ白なドレスだった。殆ど飾りのないストレートなスカートのドレスで、薔薇のコサージュがドレスの裾に縫い付けられているぐらいだった。



目の前のガーネット侯爵家の令嬢は、目立つ真っ赤な真紅のドレスだった。


「あらあらまぁまぁ♪とっても素敵なドレスですわね~」


呑気に相手を褒めるシオンに、レイラ・ガーネット令嬢はズルッと力が抜けた。


「ふんっ、当然ですわ!ガーネット家は紅色を尊びますのよ!」


「あらあらまぁまぁ、レイラちゃんは凄いのですね~そのドレスを綺麗に着こなしていますわ♪」


「え、あの、その………まぁ当然ですわね!」


毒気を抜かれてレイラは調子を崩した。

ニコニコして自分を褒めるシオンに、嫌味も通じずバカみたいに思えてきたレイラは、そのお茶会でシオンと仲良くなるのだった。


そして帰り際に───


「……………今日は楽しかったわ。それと最初に失礼な事を言ってごめんなさい。その純白のドレス、貴方の金髪の髪を引き立たせて綺麗だわ」


テレ隠しで最後にプイッとして馬車に乗るレイラに、シオンは最後までニコニコしながら手を振るのだった。



誰とでも仲良くなるスキルは外交に使えるスキルである。


しかし、シオンのエピソードはこれだけではない。



もう少し大きくなって、とある貴族のパーティーに出席した時の事だ。


いつも多くの人に囲まれるシオンは、いつも通りニコニコしながら話し相手を務めていた。


いつの間にか、シオンと親友と呼べるほどにまで仲良くなったレイラは、少し離れた場所で囲まれているシオンを見ていた。時期を見て、疲れたシオンを引っ張りだす役目のためである。


「相変わらず人気者ね」

「仕方がありませんわ。シオン様には裏がなく、話していて楽しいですもの」


レイラの取り巻きの令嬢が答えた。


「博識で、会話に詰まる事もなく、聞き上手ですものね♪」


レイラも同意して、そうねと答えた。


そして、シオンは挨拶にきたとある令嬢をジーと見つめた。珍しい事である。


「あの…………どうかなさいましたか?」


子爵家の令嬢でマリアと言った。


そしてザワッと、周囲がざわめいた。


シオンが『目を開いて』厳しい視線でマリア令嬢を見たからだ。


「あらあらまぁまぁ、マリア令嬢その口紅は何処で購入されたのですか」


マリア令嬢が唇に塗っていたのはツヤのでるグロス系の口紅だった。この世界の口紅はマットな仕上がりになるものが多く、ツヤ感が出るものが少なかったため、珍しいものだったのだ。


「これは私の領地にやってきた新しい商会が販売を始めたものなんですが…………」


シオンはマリア令嬢の顎に手をやり、クイッと上を向かせた。


キャーーーー!!!!


シオンは薄目でジーと見詰めて微笑んだ。


「それは興味深いですわ。ちょっと個室でお話致しましょう。構いませんか?」


「は、はひ」


マリア令嬢は真っ赤な顔になりながらシオンに連れられていった。


バタンッ


パーティー会場には、だいたい個別で休憩できる部屋を用意してあるのだ。


「レイラちゃんも聞いて欲しいの。いいかしら?」


部屋にはシオンとマリア令嬢、レイラも呼ばれてやってきた。


「珍しいですわね。マリア令嬢がどうされたのですか?」


「マリアさん、その唇に塗っている口紅は持っていますか?」

「は、はい。化粧直しの為にポケットに…………」


マリアはシオンに口紅を渡した。

シオンは口紅スティックを匂いを嗅いだり、ペロッと舐めたりして結論をだした。


「やっぱりね。マリアさんこの口紅は使わない様にご両親にも伝えて下さい」

「どういうことでしょう?」


シオンは小声で言った。


「この口紅にはツヤを出す為に有害な物質が使われています。すぐにではありませんが、長く使うと人体に悪影響を及ぼします。これが気になってマリアさんを見詰めてしまいました」


!?


「えっ、わ、私は大丈夫なのでしょうか!?」

「シオンも大丈夫ですの!?先程舐めましたわよね!」


レイラはマリア以上に動揺した。


「少しぐらいなら大丈夫ですわ。でも少しずつ体内に入り蓄積されると早死にしますわ。だから至急、使用を止めて販売も停止させなければなりません。販売元の商会が知って販売しているのか、知らずに販売しているのか確認しなければなりません。レイラちゃん、お願いできますか?」


シオンに言われて初めてレイラは呼ばれた理由に気付いた。マリアの子爵家はレイラの派閥だった。いくらシオンのクロイツ公爵家でも違う派閥の領地を勝手に調査できないのだ。



「わかりましたわ。すぐに専門家を連れて調査致しますわ。マリア令嬢も両親には話していいですが、商会にはまだ言わないで下さい。逃げられては困りますので」


マリアは何度も頷きシオンに感謝するのだった。


そして1ヶ月後、例の商会は有害物質が使われている事を知りながら販売したと言うことで逮捕され取り潰しになった。


マリア令嬢の両親からも御礼の品がシオンの下に届くのだった。


「あらあらまぁまぁ、気にされなくてもよかったのに」


クロイツ公爵家は今日も平和である。




とある日、クロイツ公爵家の当主セイル・クロイツ公爵は腕を組んで悩んでいた。


そこにシオンの母、ローズも困ったわのポーズで目の前の手紙の山を見ていた。


そう!この手紙の山は、シオンの婚約を申込む手紙であった。


シオンも月日が流れ18歳。すでに高位の令嬢であれば婚約者がいるのが普通である。


しかし、とある事情からなかなか婚約者が決まらないのだ。



それは───



「あなた、そろそろ引き伸ばすにも限界ですわ。そろそろ決めませんと」


「…………戦争になるか」


シオンは前々から敵国の王子から求婚されていた。

しかし、親として孤立無援の敵国に大事な娘を嫁がせたくない。しかし、勝手にシオンの婚約者を決めると攻め込むと脅されていたのだ。

無論、国王様にも伝えてあり長い間、議論と相談を重ねてこんにちに至る。


ガチャッ


そこにシオンが入ってきた。


「あらあらまぁまぁ、なにをそんなに悩んでおられるのですか?私も18歳になりました。もう1人で何でも対応できますわ。隣国の王子、ルーク様の求婚お受け致します」


「いいのか?いくらルーク王子がお前を大切にしようと、向こうの貴族達が、お前を目の敵のように嫌がらせしてくるだろう。他国の、それも敵国の貴族が王子妃の地位を奪うのだ。国内の貴族令嬢は面白くないだろうからな」


「シオン、貴女は私達の大切な娘よ。貴女が、苦しむとわかっていて、行かせることはできないわ!」


母はシオンを抱きしめながら涙ながらに言った。


「私は大丈夫です。それに何年も私を諦めずに求婚して頂いたルーク王子には、少し好感をもっておりますので。まぁ、嫉妬深く粘着体質はマイナスですけどね」


クスクスと笑いながらシオン言った。

こうして、シオンは隣国へ嫁ぐ事になった。


「シオン!嫌ですわ!行かないで下さいまし!」


親友のレイラは泣いて最後まで引き止めた。


「あらあらまぁまぁ、泣かないで。大丈夫ですわ。きっとこの先、『両国』はより良い未来が待っています。きっとまた会いましょう!」


シオンは最後までニコニコとレイラを慰めて隣国へと嫁いでいった。

嫁いでいったと言っても、1年の婚約期間を終えてから婚姻する予定である。


そして、シオンが隣国に渡り半年過ぎた。



「シオン様、こちらはどうでしょうか」

「いいえ、こちらでお話致しましょう!」

「シオンお姉様、また面白いお話して欲しいです!」



この隣国で最初こそは冷たい目で見られたが、シオンはあっと言う間に、持ち前のコミュニケーション術で、同世代の令嬢を陥落させ、引き続きその同伴者まで認められる存在となった。


すでにシオンが提案した政策で助かった貴族は多い。たった半年で隣国で認められる存在となったのだ。


「あらあらまぁまぁ♪では皆さん一緒に話しましょうね」


いつもニコニコと、裏のない笑顔のシオンは、隣国で足を引っ張り合う事に、疲れていた令嬢達の心を癒やし、画期的な政策で両方の領地に利益をもたらせたシオンの人気はうなぎ登りだった。


隣国の貴族達は疑心暗鬼に陥っていた。

どこの国でも多少の足の引っ張り合いは付きまとう。


しかし、ここ隣国アルバート王国はそれが酷いものになっていた。秘密裏に国王が密告制度を発令し、見に覚えのない罪に怯える日々になったのだ。

そして、自分に悪意が向かないように、隣国に圧力を掛ける形になっていったのだ。


「あらあらまぁまぁ、なんてことでしょう。もっと幸せになる方法があるのですから、みんなで頑張りましょう♪」



隣りの領主が手を取り合い治水工事や、業務提携、お互いの領地の特産品の免税など簡単なことで、もっと利益がでるのに協力できていなかった。


故にシオンは王子妃の権限と権力、そして自分の案で命じたと、領主達は命令に従っただけだと言い訳出来るようにしたことで、アルバート王国の貴族達の信頼を勝ち取ったのだ。


元々、殺伐としたこの現状に嫌気をさしていた貴族達は【第二王子ルーク・アルバート】を支持していった。


ルークは王位に興味がなく、幼い頃国の祭事で見かけたシオンに一目惚れしてからシオン以外は何もいらないと豪語していた。


しかし、シオンが自国の現状を憂いて自ら自国をより良い国に改革しようと動いているのに、自分は何も動かず、ようやく手に入ったシオンに、幻滅されたくないと思いシオンの意見を聞きながら改革に協力していった。


シオンが隣国アルバート王国にきて1年が経った。


密告制度を敷いていた国王と第一王子を辺境へ追放し、ルークが王位を継いだ。

そして、シオンとの結婚式である。



「シオン、僕は君が手に入ればそれで十分だと思っていた。自分の身勝手な感情で君の意思も確認せず強引な手を使った。無理矢理手に入れても好きになってもらえるはずなんてないのに」


ルークの罪の告白にシオンはソッと手を握った。


「あらあらまぁまぁ、誰がルーク様を【愛して】いないと言いましたか?」


えっ?と、ルークが驚いた目でシオンを見た。


「確かにルーク様が我が家に圧力を掛けていた事は褒められたことではありません。でも───」


シオンはコソッと耳元で囁いた。


「一目惚れって貴方だけではないのですよ?」


!?


あ、あああ……………


ルークは涙を流しながら声を殺して泣いた。

結婚式はシオンの家族とレイラ【王妃】もやって来ていた。


「シオン!ご無事で良かったですわ!」


数ヶ月前に結婚して、自国の王妃となったレイラがいた。


「あらあらまぁまぁ♪この1年でますます綺麗になったわねレイラちゃん」


「もう!お互いに王妃になったのだからちゃん付けは止めて下さいな。…………でも、二人の時は良いですわよ?」


レイラはシオンを見て幸せそうだと胸を撫で下ろした。


「これで1年前にいった事が現実になりますわ」

「えっ?なんの事かしら?」



指を立ててウインクしながら言った。


「両国にはより良い未来が待っていると言うことですわ♪」


二人はお互いにフフフッと笑い合うのだった。


それからと言うもの、お互いの王妃が親友という事もあり、両国は交流を深めお互いの特産品を取引したり、両国の結び付きを強固にして、より良い国へと向かっていった。



「あらあらまぁまぁ♪では、こうしましょう!」



後に、シオン・アルバート王妃の名前は後世へと伝わっている。


シオン王妃が関わった政策は数知れない。

しかし、シオン王妃の事を書かれた書物には必ず出てくる言葉がある。


『あらあらまぁまぁ♪』


何故か書物の冒頭の始まりは、この言葉から始まるのであった。



【FIN】





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