第4話 あの日
ジジジジ…私は、アラーム音で目が覚めた。
「んん、もう朝か…。なんか早いような…。今日は、縁と篝君の大会を見に行くからこんな早く、アラームかけてたんだった。」
いつもの休日より、早く鳴ったアラームに私は納得した。
「顔、洗ってから今日着ていく服選ぼう。ん…なんか心臓が苦しい?」
妙な息苦しさ。なにかよくわからない不安が心に広がる。
支度を終え、隣の縁宅のインターホンを押す。すぐに玄関ドアが開き、縁がでてきた。
「祈、おはよう。少し肌寒いけど、その羽織る上着、薄くない?大丈夫?」
「大丈夫。曇りだけど、だんだんと気温も上がると思うよ。」
「そっか。なら、行こうか!祈…?」
いつもの優しい縁に、私の不安がなぜか、加速する。嫌な感じがする。だが、この気持ちをどう伝えるか悩む。私、行きたくないのかも…、けど…縁にも篝君にも申し訳ない。
なかなか、行きたくないと言えず、運動場への道を縁と歩き続ける。
不安はどんどんと、大きくなる。
言わなきゃいけない。とにかく、行きたくないって、言わなきゃ。
「今日、篝君の試合行くの、止めない?」
やっとの思いで、縁にそう問いかける。その問いに縁は、驚いた顔しつつもどうすべきか、悩んでいる様子。
篝君に悪いから、頑張ってって、挨拶だけはしに行こうと。互いの両親は、少し遠出の買い物に行っている。だから、私を一人で留守番させてたくないんだ、ともわかる。
けど、今日はとにかく嫌なんだと伝えていると、急にグイっ、と強く手を引かれた。
「縁、ちょっと!とにかく行きたくないの。引っ張らないで!」
私は、縁に対し、自分でも驚くぐらいな強さの言葉をかけてしまった。
険悪な雰囲気のまま、私と縁は、運動場への道を歩く。私の手をしっかり握りしめる縁の顔を覗く。
そこには、いつも優しい縁が、いつも私を大切にしてくれる縁が、いつも一緒にいてくれる縁の顔がある。
そのことに対して、心の内側が熱くなる。けど、その熱さが私の心の外側をなぜか急激に冷やす。
もう、そろそろ運動場に着こうとなった時、私の耳に車の急ブレーキをかける音が響く。え、と思った瞬間、目の前に車がもう、きていた。
私の瞳に縁の顔が写る。私は、
「縁!」
と叫ぶ。それと同時にどこかに衝撃と痛みが走る。
「痛…!」
私は、地面に倒れこんだ。目に映る景色がゆっくりと流れ、縁の伸びた腕が私から、徐々に遠ざかる。
私は、縁に突き飛ばされたんだ、と理解した瞬間。
「ドン!」
と鈍く、強い音が響く。
私の目の前で縁が車に跳ねられた。
「縁ぃぃ!祈さん!おい、早く救急車呼んでくれ!」
「おいおい、先生呼んでこい!」
「今、跳ねられたの縁だよな?ヤバいヤバい…どうしよ…どうしたら、いいんだよ。」
その事故現場に、試合前のアップをしに、運動場外周を走っていた篝君とサッカー部員たちの怒鳴り声や悲痛な叫びが聞こえ、私は起きた出来事をはっきりと理解してしまった。
縁が車に跳ねられた…、私をかばって、縁、縁!
倒れ込んだ衝撃で、身体中が痛む。けど、そんなことは、どうでもいい!
私は、車に跳ねられ、地面に横たわり、動く気配がない縁に近づこうとする。
「祈さん!動かないで!祈さんも怪我してるから!」
「篝君…けど、縁が…縁が!」
パニックなる私を篝君は、必死に止める。近くにいた人たちも必死に救護や事故の対応している。
「私が…私が…もっと、行きたくないって、縁に強く言ってれば…!もっと、縁に不安を伝えていたら…私…間違えちゃった…縁、私、間違えちゃったよ…!」
私は、慟哭した。
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