第5話 伝えなくちゃ
縁は、あの日の記憶を深淵の侵食が進むごとに蘇ってきていた。
車が急に突っ込んできて、咄嗟に祈を突き飛ばした。そして、自分が車に跳ねられたことを。
薄れていく意識の中で、頼りになる篝の声や篝を通して仲良くなったサッカー部のみんなの声が…。そして、自分が愛する祈の慟哭が…。
「祈…間違えちゃったって、なんだよ。祈の声に耳をかさなかった僕がいけなかったんだよ。そんなに自分を責めないでくれ…!」
あの日、間違えたのは、祈ではなく、自分自身なのだと。昨日のことをはっきりと思い出し、再び、祈を見る。
声が届かない祈、触れることができない祈。
祈の重ねた手を握りしめる。触れることができなくても、わかる。その手は、震えていた。縁だからこそ、わかる。祈にとって自分がどんな存在なのかを。
祈を一人、残していかなければならない…
だからこそ、伝えなくちゃ、伝えなくちゃ。
あのさ、僕は祈に伝えなくちゃ、
「少しぐらいの間違いは、生きてればそりゃあるだろう?そんなに気にしなくていい…、僕が側にずっといてあげる。」
最初の言葉は、祈の為に。後の言葉は、自分自身の為に。祈と一緒にずっと、側にずっと…。
祈は、ずっと泣き続ける。その姿が縁の心を強く締める。
そして、祈は泣きながら、動かなくなった縁のほっぺをつねる。
「祈…、祈…!」
縁のほっぺに熱を、祈の体温を感じる。
「祈の気が済まないなら…ほっぺをつねってやるよ。それでおあいこにしたら…もう、行くよ…!祈に言わなくちゃ…、少し照れるけど…」
祈、祈…。
「君を愛してるよ。」
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