第10話大樹side

 

 俺はアレコレと姉に現実を見せた。見せつけた、ともいう。


 表向き良い人が本当に良い人とは限らないこととか。

 ラブラブのカップルが実は裏では罵り合っていることとか。

 虐めっ子から助けていた子が逆に虐めのターゲットにされたこととか。



 人間の嫌な場面を多く見たわりに人間不信に陥らないのは流石、姉だ。

 俺の方が人間不信に陥りそうだ。こういう人間が一番得をするんだろうな。天然最強とは姉のことだ。


 ただ、この天然具合が人を巻き込んでいかなければ一番いい。

 姉に巻き込まれたら人生終わりだ。俺は弟だからな。嫌でも巻き込まれる。ならそれを少しでも抑えたい。


 そうして、姉を徐々に矯正していった……と思う……たぶん。きっと。そうだといいな。



 ただ、高校進学に例の学校を選ぶことはなかった。それだけが救いといえば救いなのかもしれない。


 大学は国立に進み、卒業後は友人と起業してそれなりに成功した。

 仕事先で知り合った男性と結婚して子供にも恵まれた。

 あの男と違って普通の男だ。

 少し気弱なところがあるけど、真面目でいい人だ。

 そんな男と家庭を持ち、子供を育てた。

 ああ、普通だ。ごく普通の幸せを手に入れた。


 数年後、義兄は会社を辞めて専業主夫になった。

 姉は逆に家の事は義兄にまかせて仕事三昧。

 それでいいのか?とも思ったが、二人はそれで幸せらしい。


 父は複雑そうな顔をしていたが、姉の壊滅的な家事能力と子育てスキルのなさを考えると、妥当な判断だったのかもしれない。



「私に主婦は無理だわ」


 笑って言う姉さん。

 まあ、確かに無理だろうなと思った。


 姉はお菓子作りは上手なのに、何故か普通の料理が不味い。

 なにいれた!?と言いたくなるくらい酷い味なのだ。


 なにはともあれ、俺達家族は幸せだ。

 来週、転勤で俺は引っ越すことになった。

 新しい土地で上手くやれるか心配ではあるが、なんとかなるだろうと思っている。

 もうなにも怖くない。


 悪夢は終わったんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る