第11話美咲side

 私の両親は最悪だ。

 親ガチャに失敗した。

 そう言うと「逆だろ?」とよく言われる。


 父親は他人同然だった。

 殆ど海外暮らし。

 祖父母と母と暮らしていたけど、広い屋敷で一緒に過ごすことは稀だった。


 祖父は父同様に仕事で忙しい。

 祖母は私が女の子だったのが気に入らないようだった。本当は男の孫が良かったと聞いたことがある。

 母は無関心だった。


 父に夢中の母は、例え二人の子供だとしても娘を優先することはなかった。


 あの事件があった後も両親は私を置いて沖縄に引っ越していった。


 母の判断だったらしい。

 正気を失った娘をあの人は捨てた。


 私の面倒は祖父と叔父が見てくれた。


 退院してからも定期的に通院し続けた。


 叔父よりも早くに死んだ時はホッとした。

 私を心配そうに見る叔父。

 両親を呼ぼうとしてくれたけど、それだけは拒否した。

 私のちっぽけなプライドがそれを拒否した。

 死の淵にたって思ったことは、あの両親に死に目を看取られたくないということ。


 薄れていくなかで、今度生まれたら、あの親の元だけはごめんだと思ったことだけ覚えている。




 そして私は生まれ変わった。


 優しい父親の元に。


 ただし、母親はあの人だった。





「ねぇ、お父さん」


「ん?なんだい?」


「どうしてお母さんと結婚したの?お母さん仕事ばっかりで、お父さんが家のこと全部してるんだよ?嫌じゃないの?」


「……ははは。そうだね。でもね、働いている時のお母さんはカッコイイだろ?キラキラと輝いている。お父さんはそんなお母さんが好きなんだよ」


「でも……」


「それにね、お父さんだって好きな事をしてる」


「え?」


「お父さんは外で働くよりも料理を作ったりするのが好きなんだ。学生の頃は飲食店でアルバイトしていたしね。一時は料理人を目指そうと思ったこともあるよ」


「そうなの!?」


「ああ、だから美咲が心配するようなことはなにもないよ」


「……」


「美咲は、お母さん好きかい?」


「……嫌いじゃない」


「うん、それでいい」


「怒らないの?」


「どうして怒るんだい?」


「だって……私、お母さんを好きだって言わなかったし……」


「構わないよ。人には好き嫌いがあって当然だ。親だからって無理に好きになる必要はないんだ」



 そう言って私の頭をなでる父の手はどこまでも優しかった。


 鈍感でデリカシーのない母。

 だけど、前ほどではないと気付いた。


 今の母は父を大切にしている。

 私を蔑ろにすることもない。


 この『母』は違うのかもしれない。


 前とは違うかもしれない。

 そんな期待を抱いてしまった。


 前の夫とは出会わなかったのだろうか?

 途中で別れてそれっきりだったのだろうか?

 だから今の父と結婚したんだろうか?


 聞きたいことは山ほどある。

 でもまだ聞く勇気はなかった。


 違うといえば、叔父もそうだ。


 前の時、事件の前は会うことさえなかった。

 その叔父は頻繁に会いにくる。


 父と叔父は仲が良い。

 だからだろうか?


 母が前の母とは違うように、叔父も前の叔父と違うのかもしれない。


 まだ母を信用できない。

 それでも嫌悪感はない。



「なにかあったら連絡すればいい」


「叔父さん……」


「どこにいたって駆けつけてるよ」


「うん……」


 叔父は、やっぱり叔父だった。

 前と同じで優しい。

 優しいから貧乏くじを引くんだと何度思ったかわからない。


 母はともかく、父と叔父には孝行したい。

 あの人は一人でだって余裕で生きていける。そういう人だから。


 今も前もずっと自由に好き勝手してる人だから。


 まぁ、今回は、あの人を反面教師にして生きていこう。

 それが幸せの近道だということは間違いない。



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