第9話大樹side

 

 近所で有名な愛妻家。

 子供はいないが、奥さんを大切にしているって評判だ。

 奥さんも上品で素敵な人だ。

 毎日愛妻弁当を欠かさない。

 絵にかいたような幸せな夫婦。


 だが、俺は知っている。

 旦那が浮気していることを。


 なので匿名で奥さんへ証拠写真を送った。


 当然、奥さんは家を出て行った。

 旦那は焦り、必死に言い訳をしたらしいが、受け入れられることはなかった。

 離婚調停中らしい。


 家に浮気相手が結婚を迫りに来た時は修羅場だった。

 どうやら奥さんと離婚すると聞いて、自分と結婚してくれると考えたらしい。


「これで、私と結婚してくれるんですよね!」


「ふざけるな!誰がお前みたいな女と結婚するものか!!」


 旦那の怒鳴り声が外にまで響いた。

 女はヒステリックに叫び散らしたている。


「なんでよ!奥さんとは離婚するんでしょ!?」


「しない!」


「うそ!!」


「本当だ!」


「離婚調停中だって聞いたわよ!」


「だからといって離婚に応じるつもりはない!!」


「なんで!?離婚して私と結婚すればいいでしょ!?」


「お前みたいな女と結婚なんかできるか!だいたい男は俺一人じゃないだろう!」


「ふざけないでよ!」


 泣きわめきながら玄関先で暴れまわる女を近所の人が取り押さえていた。

 騒ぎを聞きつけた警官がやってきて、そのまま連行されていった。


 その後、どうなったかはわからない。

 ただ、俺の知る限り、あの女が二度とこの町に姿を現すことはなかったのは確かだった。



 一部始終見ていた姉は一言、「すごいね」と言っただけだった。


 俺は「浮気した旦那さんが一番悪いけど、奥さんがいるって知った上で旦那さんと付き合った女の人も同じくらいに悪い」と言っておいた。


 姉は納得してくれたようだ。


「結婚だけじゃない。婚約している相手と付き合うのも同じくらいに悪い。結婚の約束をしているんだから」


「そうだね」


 小学生の会話じゃない。

 自覚しているけど、言わないとこの姉は理解しない。

 見て、話して、ようやく理解してくれる。



 離婚調停は長引くことなく離婚したそうだ。

 あの夫婦には悪いことをした……とは思っていない。どの道、数年後には浮気が発覚して離婚する夫婦だ。それが早まっただけの話だ。


 そういえば、旦那が不倫していることを教えたのは確か姉だった。

 正確には旦那が宝石店でなにかを買っているところを偶然見た。

 プレゼントを買っている場面を、だ。

 姉はそれを奥さんに話した。悪気はない。姉はそれが奥さんへのプレゼントだと勘違いして教えただけだ。姉的には善意のつもりだったんだろう。挨拶がてらに、ちょっとした秘密の会話。奥さんもあの時点で浮気を微塵も疑ってなかった。姉から話を聞いて「これは女同士の秘密ね」と笑っていたくらいだ。


 問題は、プレゼントは奥さんじゃなく、だったことだ。


 これが浮気をしていると知る切っ掛けだっていうんだからシャレにならん。

 浮気を知った奥さんが家を出て行き、旦那は首吊り自殺をしたことだろうか。

 あの時はかなりの騒ぎになった。警察沙汰にもなった。


 それを思えば、今回はマシなほうだと思う。


 どちらもからな。



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