第8話大樹side

 過去に戻っている。

 そう思えたのは俺が小学生の頃だ。


 なに言っているんだと思われるだろうから誰かに相談したことは一度もない。


 初めは夢を見たんだと思った。

 酷い悪夢を見ただけだと。

 ただの夢でないことは明らかだった。

 夢で見たことが現実に起こっているのが証拠だ。



 子煩悩な父は、特に姉に甘い。

 それも夢のとおりだ。


 このままいけば夢は現実となる。


 悪夢としかいいようのない現実。

 俺はもう一度それを体験する勇気はなかった。


 俺達家族の悪夢の原因は「姉」だ。


 この姉のせいで……。

 俺も弟達も碌な人生を歩めなかった。

 父さん?

 父さんは最後まで姉を甘やかしていたんだ。自業自得だろう。


 いや、一番可哀想なのは姪だ。


 あの子も悪かった。

 だけど、あそこまで酷い目にあうことはなかった筈だ。

 いや、違うな。

 恨まれていたんだ。

 当然の報いだと思う者は多かった。



 小学四年生になった姉は無邪気に笑っている。


 今の俺よりずっと大きな姉の姿。

 それも当たり前か。

 俺は小学一年生。

 三歳違いとは言え、子供の頃の三歳は大きい。



 俺達家族の運命が狂ったのは間違いなく姉の進学だ。

 高校進学。

 あの学校にさえ行かなければ俺達はあんなことにならなかった。


 姉は素直だ。

 悪気があってやっているわけじゃない。


 だが、その素直さが問題なんだ!


 しかも本人が無自覚だからこそ被害が拡大する。

 渦中にいるはずの姉は大抵なんとかなる。悪運が強いのか、強運なのかはわからないが、なんとかしてしまうのだ。

 だから周りが大変な目に遭う。



 世の中、姉のように運のいい人間ばかりじゃない!

 普通の人間が姉のような人生を送ってまともな神経を保てるはずがない!!


 今なら間にあうだろうか。

 まだ姉は十歳の子供だ。

 矯正していけるかもしれない。

 今度こそ、家族で幸せになれるように努力しよう。

 俺が俺としての人生を取り戻したとき、最初に考えたことはそれだった。



 俺たち姉弟が同じ学校で過ごせるのは小学校くらいだ。

 これが一歳か二歳の年の差なら中学校も同じで長く監視できるが、そうもいかない。


 なので、初めに人様のものを取ってはいけない、ということから教え込もうと思った。

 まあ、常識的なことだから普通に言うと「なにいってるの?」となる。だから具体的かつわかりやすい例をあげることにした。

 口で説明したところで姉は理解しない。

 子供だってこともあるが、姉はなにかと鈍感な質だ。直接目で見て体験しないと理解できない性質らしい。

 ならば、見せてやればいい。

 幸いにして俺は過去の記憶がある分、起きる修羅場を知っている。



 


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