第3話鈴木晃司side

『神林杏との婚約を解消する』


 俺は両親にそう宣言した。

 彼女が大学を卒業するまでの一年と少し。

 それが俺のタイムリミットだったからだ。


 婚約してから今日まで、神林杏は俺にとって理想の婚約者だった。

 彼女が文句なしの婚約者だったことは確かだ。


 ああ、認める。


 神林杏は、鈴木家にとって素晴らしい『つなぎの婚約者』だった。


 そもそも俺の家、鈴木家が婚姻関係を結びたかったのは神林家じゃない。


 血統正しい旧家。

 それも元華族の令嬢を婚約者にと希望していた。


 公家の家系である伊集院家が最有力候補だ。

 伊集院家の令嬢は俺と年回りも良く、本人も優秀で性格だって申し分ない。

 そんな相手がいるのに、何故わざわざ格下の神林家に婚約を申し込んだのか? 理由は簡単だ。


 婚約の打診を断わられ続けたからだ。


 令嬢本人も俺に興味はないらしい。


 いつも挨拶だけで終わる。

 会話をしようにも令嬢の兄が常に傍にいて、まるで隙がない。


 しかも、何故か兄のほうは俺のことを嫌っているようだ。

 直接言われたわけじゃない。

 それでも、敵意を感じるのだ。


 妹にまとわりつく虫とでも思っているのだろう。


 俺だって親に言われて仕方なく来ているだけだ。

 だいたい彼女は俺の好みじゃない。

 好きで来ているわけでもないのに。まったく。自意識過剰だろうに。


 だから、俺は早々に見切りをつけた。

 伊集院家に婚約申し込みをするくらいなら、他の家に行ったほうが遥かにマシだ。


 それに、鈴木家の御曹司に婚約者がいないという状況はそれだけで周りが煩くてかなわない。


 両親は『伊集院家の令嬢』に執心だ。


 俺が別の女性と婚約することを望んでいない。

 それはそうだろう。

 伊集院家以上の家柄、それも女子ともなれば争奪戦だ。

 だからといって俺が毎度毎度パーティーで女に囲まれる状況はいただけない。

 なにより面倒臭い。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る