第2話記憶と違う日々2
この出来事は社交界で知らぬ者はなく、話題になりました。
ほどなくして、別の情報が入ってくることになります。
それは、
鈴木家は婚約を解消してすぐに新しい女性との婚約を発表しました。
相手はもちろん、『同じ学校に通う特待生』。
「急いでいるんだろう」
「お兄様?急ぐとはなんでしょうか?」
「もちろん婚姻を、だ」
「……婚約したばかりですよ?」
「ああ、だが、鈴木家は結婚の日程を変更する気はないようだ」
お兄様から伺った話では、元々鈴木家が予定していた結婚式の日程は、神林様が大学を卒業後だったようです。
私が大学四年生ですから、神林杏様は大学三年。
ということは、後一年弱で結婚。
それの変更なし、ということは、つまり……。
「新しい婚約者の女性は一年と少しで鈴木家の嫁として認められないといけなくなったわけだ。略奪同然の婚約だと聞くし、鈴木家の跡取り息子が一方的に婚約を解消したという話も聞く。なににしても二人が祝福されるとは思えないな。鈴木家はそう受けとめていないのか、それとも何とかなると考えているのかは知らないが、社交界を舐め過ぎだ」
結果は、お兄様の言うとおりでした。
鈴木家は周囲から白い目で見られて、すっかり評判を落としてしまいました。
それもそのはず。
神林杏様は鈴木晃司様の婚約者として社交界で知れ渡っていました。そのうえ、彼女は大変評判の良いお嬢様です。彼女の目に見えない努力を人々はちゃんと見ていたのですから、周りが黙っていません。
あっという間に鈴木グループは窮地に陥りました。
彼らの味方は誰もいなくなり、孤立状態。
特に中小企業からの信頼を失い、業績は悪化する一方。
このままの状態が続くようでしたら、経営が立ち行かなくなるかもしれません。
自業自得と言えばそれまででしょう。
今回は随分と早く倒産するかもしれません。
もっとも、今の私には全く関係のない話です。
その証拠に、私は明日からドイツに留学します。
大学卒業後、どうしようかと考えていた時に真っ先に思い浮かんだのがシオンです。
私の最愛の旦那様。
今世ではまだ出会っていません。
彼がこの時期なにをしていたのかも詳しく知りません。留学していたと聞いていますし、海外を転々としていたとも聞いています。ですが、七歳年下の夫は現在15歳。とてもではありませんが22歳の私が彼に交際を申し込むには無理があります。犯罪者として訴えられてもおかしくない年齢です。なので、私は彼のルーツ。正確にはお婆様の祖国であるドイツに行こうと決めました。
彼と会えるかどうかよりも、私自身が知りたいと思ったからです。
それに、彼と出会う前に少しでもドイツ語を覚えておきたかったのも理由の一つでした。
再び出会えるかどうかわかりません。
偶然の重なりで会うことができたとしても、相手は私を覚えていませんし、再び恋に落ちるかわかりません。
それでも良いと思えるのはシオンとの幸せな結婚生活があったからでしょう。
彼が今世で誰を愛し結婚したとしても私は祝福できます。
三年後、シオンと出会い、その場でプロポーズされる未来があるのですが、この時の私には知るよしもありませんでした。
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