第5話大場社長side

「……その……すまなかった……いろいろと……」


 離婚届に印鑑を押しながら俺が吐いた精一杯の謝罪の言葉。

 妻側の弁護士が離婚届を確認した。


『妻』は動じなかった。


 俺の側の弁護士も渡された離婚届を確認する。


「それでは、今日中に提出いたしましょう」


「よろしくおねがいします」


 にこやかに微笑む『妻』。

 俺の結婚はここで終止符をうたれた。




「田上先生、今日はありがとうございました」


「礼には及びません。私は弁護士として当然の事をしたまでです」


「ご謙遜なさって……こちらのに対処してくださる弁護士さんは多くありません」


「弁護士は守秘義務がありますから御安心ください」


 その難しい問題でビクつく大場家の顧問弁護士。

 和やかに話す『元妻』と『その弁護士』と俺達の温度差ははっきり言って違う。


「それでは先生、あちらの件もよろしくお願いします」


「ええ、お任せください。本元はこれで終了しましたが、まだまだ油断は禁物です」


「はい」


「まぁ、あちらも必ず勝てる戦ですから問題ありませんが」


「皆さまがご丁寧に証拠を提供してくださったお陰です」


「確かにその通りですね。わざわざ提供してくださるバ……いいえ、奇特な方々ばかりで、こちらも助かります。こんなに簡単に勝てる案件は中々ありませんからね」


 なにやら雲行きが怪しい。

 別の話を持ち出した弁護士が何を指しているのか判断できない大場家の顧問弁護士がチラリとこっちを見た。なんと言えばいいのかわからない顔だ。どうやら彼も分からないらしい。

 弁護士も役に立つ事と立たない事があるから仕方ない。


「では、次の打ち合わせをしましょう」


「そうですね、先生」


『元妻』と顧問弁護士は別室に移動した。

 俺は残された大場家の顧問弁護士を二人で首をひねるしかなかった。






 後日、愛人と浮気相手は『元妻』に慰謝料を請求された。

 決定的な証拠を押さえられているらしく、皆は『元妻』に白旗をあげた。抵抗するなら徹底抗戦だと言われたら黙るしかない。

 皆、かなりの額をふんだくられたようだが、裁判沙汰にするよりかはマシだと諦めたらしい。

 浮気相手の中には決まりかけていた縁談が白紙になったという者までいた。




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