第11話中島秀一side
ほころび始めたのは何時だったのか。
香織の自分勝手な言動が多くなった頃だろうか。
個人主義を気取る義両親の教育の賜物か、香織の言動に粗が見え始めてきた。
お嬢様育ちの割に芸事に疎かった。
その反面、流行やブランド品への興味や関心は人一倍強い。
着飾っていなければ死ぬ病気でもかかっているのかと思うくらいに服や化粧品には気を遣う。
そんな香織を見て育ったせいか娘までも母親の真似をしだす。
おかしい、と思い始めたのは何時からだろう。
自分達の欲望のままに生きる妻子を見て眉を顰めたのは何時からだろう。
順調に出世していく。
香織と結婚したお陰で専務との交流も増え、俺は数年前から海外を拠点に仕事をしている。
娘が中学校に入る頃には年に数回家族に会えれば良い方になっていた。
難しい年頃の娘との会話はない。
妻は義母の会社を手伝い始めたらしい。オシャレ好きな香織にはぴったりの職業だろう。
家族らしい交流などしなくなった。
おかしい、という思いもだんだん薄れていく。
いや、違う。
今でもコレはおかしいと思っている。だけど何がおかしいのかと問われると明確に表現できない。言語化できない思いだけが心に澱のように溜っていく。
更に数年が過ぎた。
俺は海外支社の社長をまかされ、ますます日本から足が遠のいていた。
そんな時に、鈴木グループが倒産した。なんの因果か。これだけの大企業だというのに倒産する時はアッと間だ。影響は計り知れないと思った。世界経済にも影響が出るのは確実だった。鈴木グループの幹部たちが次々に逮捕されていくのをテレビで観た。その中には義父の姿もあり、義父は会社の金を横領していたらしい。道理で給料の割に贅沢な暮らしをしていた訳だ。一緒に暮らした事はないが、それでも義実家に行けばその暮らしぶりは大体わかる。ただ、義母がエステサロンの経営をしていることから贅沢な暮らしを特に不自然と感じなかったのだ。なにしろ義母のエステサロンは富裕層向けだ。
会社が倒産し、俺は仕方なく帰国した。
無職のまま海外にいても仕方がない。
それにまだ日本の方が再就職はしやすいはずだ。
鈴木グループの倒産で経済は滅茶苦茶になった。関係会社の倒産は相次いだし、下請け業者もドミノ倒しのように倒産。そして連鎖倒産が起きる。下請けとは言え、各社ともに外注中心だったのでそれらの外注先で働いていた人間達も生活が成り立たなくなった。
影響が最低限に収まったのは日本くらいじゃないのか?
鈴木グループは日本の企業に嫌われていた。保守的な連中だと笑っていた義父たちの顔をが脳裏に焼き付いている。「自分達も日本の企業は時代遅れで嫌いだ」と笑う。下品な笑いだった。その時に「日本企業はこういった態度の下品な連中に嫌悪しているのでは?」「保守的云々の前に、挨拶一つしない連中を信用できないんじゃないのか?」と呆れた覚えがあった。
「日本の企業は正しい選択をしたんだな」
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