第12話中島秀一side

 

 日本に帰国後、俺を待っていたのは厳しい現実だった。

 再就職先は見つかったが、問題は家族だ。



 義父は起訴され実刑は確実。

 ゴタゴタに巻き込まれる前に義母は義父を切り捨て離婚。

 俺も義母と香織に言われるまま離婚届にサインをした。これで二度目の離婚だ。後から知った事だが、二人は義父の隠し財産を持って国外に逃げ出す計画を練っていたらしい。何故、逃げる必要があるのかは分からない。警察から「連絡が来ても出ないでください」という忠告だけされた。


 なんらかの事件に関与しているのかとも考えたが、結局は分からず終いだ。


 ただ、里香。

 娘が中学生の頃からドラッグの常習犯になっていると聞かされた時は心底驚いた。



「知らなかったのですか?」


「はい」


「奥様達から何も?」


「……はい」


 刑事に哀れみの目を向けられたが、知った事か。

 あの子のことは香織に任せきりだった。そもそも俺は海外にずっといたんだから仕方がないだろう!


 里香の進学についても相談された覚えはない。


 何処かの私立に行かせるかどうかを義両親が話していたのを聞いたくらいはある。でもそれだってご破算になったと聞いた。近くの公立に通わせるのだとばかり思っていたんだ!高校?大学?さぁ……。香織からは何も聞いてない。



「よほどお嬢さんに興味がなかったようですね」


「失礼な!」


「そうではないと?自分の娘が通っていた学校の名前が出てこない時点でどうかと思いますが」


「海外にいたんです」


「それでも普通は知っていますよ。学校名くらい」


「……」


「お嬢さんが高校を転々としていたる事も知らなかったようですね」


「……」


「おかしいと思わなかったんですか?違和感を感じる事は?」


「……」


「まぁ、貴男が何も知らないという事は此方でも把握しています。お嬢さんとだけでなく、奥様とも大してやり取りをしていない事も含めて」


 なら一々聞くな!

 そう言えたらどれだけいいか。何も知らないのは本当だった。


 だから娘が最近ニュースで話題になっている事件に関与しているかもしれないと疑われても何も答えられない。

 刑事は黒に近いグレーだと言う。薬の売買までやっているんだ。無関係ではないだろう。



 その後、俺は娘の親権を放棄した。

 無責任な親と言われても仕方ないが、あの子を更生させられる自信がない。


 久しぶりにまともに話した里香とは会話が成り立たない。

 ドラッグでおかしくなっているとかそういった理由からではなく、俺はあの子の考えが全く理解できなかったからだ。


 里香は……娘は、自分のしたことの何がいけないのかを理解していない。


 ドラッグを売買したのは法律に反しているから違法だと理解した。

 だが、それ以外は全くダメだった。


 これも刑事に教えられたが、里香が度々学校を転校していた理由。それを「虐め問題」と言われた時は、里香が虐めにあっていたのかと思った。実際、虐められての転校らしい。なら被害者だろう、と叫びたかった。だが、里香はわざと虐めのターゲットになっていた。そして虐めた人間達を逆に集団で虐めていたというのだ。


 意味が分からない。


 何故、そんな事をしたのかも。

 何故、そうなったのかも。


「お嬢さんが虐めのターゲットになった経緯もかなり怪しいんですがね」


 刑事の言葉に俺は力なく肩を落とした。

 娘は完全に加害者だ。

 しかも被害者を装っての虐める。ゲームのように手を変え品を変え……。


「悪質すぎる。とても未成年の考えとは思えません」


 若い刑事が憤慨している。

 里香によって加害者にされ虐めを受けた学生の親は何年もかけて証拠を集めていたらしく、近々、里香と学校側を訴えるらしい。


 それを聞いても他人事のように「当然だな」としか思わなかった。


 どこまでも他人だ。

 血は繋がっているのに……。


 だけど、里香だってもう大人だ。

 自分で何とかするだろう。



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