第9話中島秀一side

「ねぇ、聞いた?営業部の安藤係長のこと」


「今は“安藤”じゃなくて、“中島”よ」


「ああ、婿に入ったんだっけ?」


「それ」


「不倫した挙句に離婚。しかも直ぐに結婚か。よくやるよね」


「ほんと。まぁ、そのお陰で出世したんだから本人としてはラッキーなんじゃない?」


「課長に昇進だもんね」



 女子社員達の噂話は絶えず聞こえてくる。

 女はコソコソと陰口を言う割に堂々と悪口を言うものだ。ただの噂話。いや、尾ひれがついているような気がする。



「前の奥さんって結婚する前はこの会社で働いてたんでしょ?」


「らしいわ。なんでも中島係長の上司だったって」


「え?年上の女性だって聞いたけどそんなに歳離れてないよね?」


「三歳か四歳くらい上じゃない?兎に角仕事の出来る女性だったらしいわ。しかも美人!」


「よくそんな出来た人からアレに乗り換えたよね?」


「だからじゃない?自分よりずっと出来た嫁にコンプレックス抱えてたんじゃない?」


「だから浮気?」


「浮気を正当化してるあたり、ヤバイよね」


「ヤバいのは上も一緒だから良いんじゃない?」


「ああ、そういえば専務も浮気して離婚したんだっけ?」


「そうそう。今の奥さんが元々本命だったなんて言ったらしいわ」


「イカレてる」


「ね、アレと先輩後輩の間柄だけあるわ」


「言えてる」


「でもさぁ、安藤……じゃなかった。中島課長って前より落ち目っぽい感じがするんだけど?出世したのになんだかパッとしないっていうか。なんだろ?前はスマートでカッコイイイメージだったのに……」


「当たり前じゃない。だって奥さんが今違うんだよ?中島課長のシャツやネクタイ見た?あれってさ、今の妻が選んだ、ってヤツだと思うんだけど妙に似合ってないんだよね」


「あ、それか。前はセンスいいって思ったもん」


「センスがいい時は前の奥さんがコーディネートしてたんじゃない?」


「ありえる」


「ブランドもので固めればいいって訳でもないのにね」


「残念な女に捕まって、残念な男になっちゃった感ある」


「それそれ」



 女達の話は終わらない。

 俺はそうそうにその場から立ち去った。



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